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様々な想いが交差する!3rdシリーズ『真実』編!!
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「私ね・・・。昔、彼氏みたいな人がいたんだよね」
「へえ・・・」

ちょっと面白くない気分になった。

憂樹に彼氏がいたとしてもちっとも珍しい話じゃない。
俺みたいに一度も恋人がいない方が珍しいんだから。

それは分かってる。頭では分かってるんだ。

しかしその事が、頭では分かっても心が分かってくれない。
気持ちを割り切れない。

その『事実』が、面白くない気分にさせる。

これは嫉妬か。
自分がこんなに嫉妬深い人間だとは知らなかった。嫌な奴だな、俺。



・・・あれ?



「ねえ。今、『みたいな』って言ったよね」
「そうだよ」
「じゃあ・・・、正確には彼氏ではなかったの?」

憂樹に鍛えられてるせいか、こういう細かい事に気付くようになったのか。
それとも、憂樹に彼氏がいた事を受け入れたくない気持ちがそこを気付かせたのか。

どっちかは分からないけど、まあどっちでも良い。

「そうだね、彼氏ではなかったね。彼氏って言うのはおこがましいかな」
「・・・・・・」

ちょっと「良かった」と思ってしまった。
つくづく小さい男だな・・・。


「え、じゃあどういう関係だったの?」
「まさとと私の関係に近いかも知れない」
「俺?」
「前にまさとは言ったよね。私の事を尊敬してるって」
「うん、言った」
「私も、その人に対して持ってたのは・・・、尊敬だったのかも知れない。
 今、思えばね・・・。」

何だろう、何か凄く悲しげに言ってるような・・・。

「その人は今、どうしてるの?」
「・・・・・・」
「?」

突然、憂樹が黙り込んでしまった。

「その人は・・・、死んじゃったんだよ」
「え!!」

死んじゃった・・・。

「どうして・・・」
「くだらない事でケンカしちゃってね。私が道路に飛び出した時にトラックが来て・・・」
「・・・!」
「私をかばって、トラックにはねられちゃったんだよ」
「な・・・」
「そこなんだけど」

突然、橘川さんが話し出した。

「確かに憂樹をかばった訳だけど、その時信号は青だった。
 実はトラックは居眠り運転をしてた事が後から分かったんです。
 つまり、過失は明らかにトラック側にあった」
「そんなの関係無いよ・・・。私が喧嘩したから飛び出した。
 それを庇ったからそうなった。それは事実じゃない」
「いや・・・、それはそうなんだけどよ・・・」
「あの・・・。橘川さんは、どうしてそれを知ってるんですか?
 もしかして友達だったとか?」
「ええ。俺とアイツは高校からの親友だったんですよ」
「そうでしたか・・・」
「ここを作ったのも、純とアイツだからね」
「ええ!?」
「そうなんですよ。高校を卒業する時、俺とアイツが立ち上げたんです。
 まあ・・・、と言っても、アイツの実家が本職の探偵で
 ここはその傘下としてやってるだけなんですけどね。
 本職に頼らなくても、もっと気軽に頼める探偵会社を作ろう、と
 親に懇願して会社を作って・・・」
「だから私達は、本職から色々とノウハウを学べたって訳」

なるほどな・・・。正に本物、プロから学んだのか。
そりゃ凄い訳だ・・・。

「で、ね・・・」
「ああ、はい」
「その人の名前なんだけど・・・」
「名前?ああ、何て言う人なの?」
「・・・・・・」

何だろう、気まずいような顔をしている。

「秋山・・・和人って名前なんだよ」
「あきやまかずと・・・。え!?秋山!?」

それってまさか・・・。

「そう。和人はね・・・。馨のお兄さんなんだよ」
「な・・・!!!」

憂樹の恋人みたいな人が・・・、秋山薫のお兄さん!?

「馨はね、お兄さんである和人と一緒にここにいたの。
 和人が亡くなった時に出て行っちゃったけど」

そうか、そういう事だったのか・・・!!
いつだったか、秋山は憂樹と同じ畑で学んだ、なんて言ってたけど
(第百十四話・『かつての同胞』より)
その『畑』っていうのはこれだったのか・・・!!!

「え、でもちょっと待って。
 二人が兄弟だってのは分かったけど、どうして出て行っちゃったの?」
「和人が私を庇ったからだよ。それが気に入らなかったんだね」
「何だよ、気に入らないって・・・」
「『そんな正義があなた達の正義か』ってね。
 自分の身すら守れない、他人の為なら自分を犠牲にする。
 そんなやり方ならもうついて行けないって言って」
「そんなのって・・・!それとこれとは関係無いじゃないか!」
「馨にとっては大有りなんだよ。アイツの中ではね。
 和人が死んだショックもあるんだろうけど」
「憂樹は・・・、そんな言い分に納得してるの!?」
「私は何も言えないよ。だってアイツの兄を殺した張本人なんだよ」
「あ・・・」

確かに・・・。

法的に罪は無いだろうけど、秋山の立場からすれば
憂樹は兄貴を殺した原因を張本人、としか考えないかも・・・。

そんな人に何を言われても・・・。

「前に秋山が言ってた・・・、不幸にしたってその事だったんだ」
「そう。馨にしてみれば不幸を与えた張本人だよ。
 アイツは和人を尊敬してた。いつか追い付くんだって頑張ってた。
 そんな兄を殺したんだからね・・・」
「そう言えば、秋山は大事な事が分かってない、なんて言ってた事があったけど
 それは何なの?」
「私が探偵をやるようになったのは・・・和人が出来なかった事。
 和人がやろうとしていた事を引き継ぐ為なんだよ。
 和人の分まで生きて、和人の分まで探偵として頑張る為に。
 それが私なりの償いだと思ってる。助けて貰った恩返しだって。
 でも馨は、私が和人の代わりにここにいる事が面白くない・・・
 いや、それを通り越して憎くてしょうがないんだよ。
 私を憎むのは仕方ない。そこは甘んじて受け入れようと思ってる。
 憎しみは何も生まない、なんて綺麗事を言ってもしょうがないしね。
 ただ、だからって和人がやって来た事を否定するのはおかしいんだよ。
 それだけは絶対に認められない・・・。
 アイツ、怒りに我を忘れて大事な事が見えなくなってるんだよ」
「でも・・・、どうするつもりなの?」
「馨と勝負するよ。それで私が馨に勝つ。
 そうやって自分のやってる事が間違いだって事を分からせないと
 馨は止まらないから・・・」

何だか・・・
大変な事になってたんだな・・・。

憂樹がそんな過去を背負ってて
そして今、そんな状況になっていただなんて・・・。



「・・・憂樹」
「ん」
「話は分かったよ。憂樹が今までそんな事になってただなんて知らなかった」
「・・・うん」
「で・・・、今、こんな事を言うのは不謹慎かも知れないんだけど」
「はい」
「今の話が・・・俺への返事と何の関係があるの?」
「実はね・・・、転勤で引っ越さなきゃいけないって言うのは嘘なの」
「え!!!」
「あれは、私がまさとから離れる為の嘘なんだ」
「どうしてそんな事を・・・」
「もうこれ以上、まさとに迷惑をかけられないからだよ。
 馨も、まさとに対して色々やって来たでしょ。
 だから決着をつけたら・・・一度全部をリセットしようと思って」
「何だよ、リセットって・・・?」
「私は他人と深く関わっちゃいけない人間だったんだよ。
 これ以上、まさとと関わってたらまた迷惑をかけちゃう。
 馨以外の事で何かが起きて・・・ね」
「そんな事、ある訳が・・・」
「無いって言い切れるの?」
「う・・・」

それは・・・。

「でも、あったとしてもそれは憂樹のせいじゃないだろ?」
「私のせいじゃないかも知れない。でも、私のせいかも知れない。
 それだけで十分なんだよ。私は実際に不幸にして来た前例があるんだから。
 お父さんとお母さんも死んじゃったし・・・」

それも・・・、絶対に憂樹のせいじゃない。
憂樹のせいなんかじゃない!

そう言いたかったけど、根拠の無い断定をしても憂樹には届かない。
それが分かっていたから言えなかった・・・。

「だから私は・・・、まさととは付き合えないの。
 まさとが嫌いって訳じゃない。むしろ好きな方だよ。
 前に言ったと思うけど大事な人だと思ってる。
 でもだからこそ私は、まさとと離れなきゃいけないんだよ。
 大事な人を私のせいで不幸にしたくないから・・・」
「・・・・・・」
「ごめんなさい・・・。本当に・・・ごめんなさい」



俺は・・・、憂樹がここまで心を閉ざしているとは思わなかった。

完全に他人と関わる事を拒絶してしまっている。

自分のせいで不幸にしてしまうと思っている。

憂樹が・・・、こんなに深く重い悲しみを背負っているなんて・・・。

俺がもう少し強くなってたら・・・
もっと早く、強くなれていたら・・・。

ここで憂樹に「俺は憂樹のせいで不幸になったりしない」と
ハッキリ言えて憂樹も心を開いてくれたかも知れない。

結局また・・・、俺の弱さがこういう結末にしてしまったのか・・・。



第二百三話につづく




     

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