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様々な想いが交差する!3rdシリーズ『真実』編!!
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「・・・・・・」
「・・・・・・」

俺も憂樹も、しばらく黙ってしまった。

とりあえず俺は・・・、何とか冷静にならないといけない。
静かに深呼吸をして気持ちを落ち着けた。



「あの・・・さ」
「・・・はい」
「改めて話を整理したいんだけど・・・。
 憂樹はウチを出なきゃいけなくなった・・・。だよね」
「うん・・・」
「それは・・・、仕事の為に」
「そう・・・。ここからじゃ通えないからね・・・。
 いわゆる転勤みたいなものだよ」
「転勤・・・か」

まだ大学生で、仕事をしていない俺にとっては実感が湧かないが
親が単身赴任の家庭の子は、こんな悲しみを味わって来たんだろうか・・・。

「それは・・・、絶対に行かなきゃいけないの?」
「まあ・・・、そうだね・・・。仕事だもん」
「・・・・・・」

行きたくないから行かない。行かなくても良い。
そんな甘えが許される問題じゃない。

これが社会と言うモノか。これが大人のルールと言うモノか。

「その事は・・・、母さんには言ったの?」
「まだだよ。まさとが初めて。まず、まさとに言いたくって」
「そうなんだ・・・。」
「なかなか言い出せなくってね・・・。
 お別れしなきゃいけない、って思ったら泣いちゃったし・・・。
 でも、おばさんにも早く言わなきゃいけないよね」
「・・・・・・」
「まさとには・・・、謝らなきゃいけないね」
「え?」
「『強くなる為に色々教えてあげる』って約束したのに・・・
 こんな中途半端な形で終わる事になっちゃって」
「それは・・・・」
「ごめんなさい・・・。とにかく・・・、そうとしか・・・」

正直、今はそこはどうでも良かった。

『どうでも良い』と言うのは問題があるかも知れないが
やはりそれよりも、憂樹がいなくなってしまう事の方がはるかに重要な問題に思えた。
目の前の、当面の問題でもあるし。

「メールとか電話とかじゃ・・・、ダメなのかな」
「無理だよ。今までやって来て分かるでしょ」
「・・・・・・」

強くなる為に色々と教えて貰えなくなってしまう。

それは確かに由々しき事態ではあるが
憂樹がいなくなってしまうと言う事は・・・、もう俺の恋は発展しようも無いと言う事でもある。

恋人同士になっていれば遠距離恋愛と言えるけど
片思いなのに離れ離れになってしまうのは、もはや諦めるしか無くなる、って事だ。
どこに行ってしまうかは分からないけど、家を出なきゃいけない程に遠くなのは確かだ。

それはつまり、接点が無くなってしまう事になる。

学校や会社で会える、とかなら、接点がある分、可能性は充分あるけど
俺と憂樹にはそう言うモノが無い。接点はこの家くらいだ。

・・・残酷過ぎる。

やるだけやって失恋、ならともかく
やるだけの事をやり切れずに終了の宣告をされたようなものだ。

恋愛の女神は、どこまで俺に残酷な仕打ちをすれば気が済むんだ・・・。



「あのさ」
「・・・はい」
「総吉オジサンの家を出たのは、こっちでどうしてもやりたい事があるから。だったよね」
「そうだよ」
「それって・・・、今の仕事の事なんだよね」
「・・・まあ、そう言う事だね」
「じゃあ・・・、やらない訳にはいかない、か・・・」

これが現実なのか。

これが運命なのか。



「・・・ねえ。一つだけ言わせて貰っても良いかな」
「良いよ。何でも言って良い。嘘つき、とでも何とでも」

そんな事は全く考えてなかった。

「俺は・・・、憂樹に行って欲しくないよ・・・」
「・・・・・・。それはどうして?まだ色々と教えて欲しいから?」
「それもあるけど・・・」
「けど?」
「そう言う理屈とかじゃなくって・・・。
 俺にとって憂樹は大事な人だし・・・、感情的なモノでしか無いけど
 やっぱり離れたくないんだよ・・・!」
「・・・・・・」

精一杯の抵抗だった。

現実的な問題から目を逸らしている。ただのワガママでしかない。
子供が泣きながら駄々をこねているのと変わらなかった。

そんな事は重々承知していた。

でも、言わずにはいられなかった。俺が今、言えるだけの事を言うしかなかった。

そうしないと、憂樹が行ってしまうから・・・。



しかし、現実は甘くは無い・・・。

「・・・ゴメン。それは無理」
「・・・・・・」
「感情に流されちゃいけない、って言うのは何度も教えて来たでしょ・・・」
「それは・・・、分かってるけど・・・」
「私だって・・・、辛いんだよ。分かってよ、まさと・・・」
「・・・・・・」

そう言われてしまったら、俺はもう何も言えなくなってしまう。

何を言っても、憂樹を困らせるだけになるからだ・・・。



「・・・・・・」
「・・・・・・」

俺と憂樹は、また黙ってしまった。

俺は何とか現実を受け入れようと、自分を納得させようと必死になって
下を向いたまま動けなかった。
気持ちを集中しないと・・・、泣き出してしまうか正気でいられなくなるか
自分でもどうなるか分からなかったからだ・・・。



しばらくすると、憂樹が立ち上がった。
黙ったまま、ドアの方向に歩いて行くのが何となく分かった。



憂樹・・・。

行かないでくれ。行かないでくれ・・・!!



声に出して叫びたかったが、そんな勇気も出なかった。

憂樹を傷付けてしまうだけだから・・・。



俺は相変わらず下を向いたまま動けなかったが
音で憂樹がドアを開けたのが分かった。

「まさと・・・」

悲しそうな声で言って来た。しかし今の俺は、返事すら出来ない・・・。



「本当に・・・、ごめんなさい・・・」

泣きそうな声でそう言うと、そのまま部屋を出て行ってしまった。



またなのか。

亜矢子の時も、山口さんの時も、失恋した時はいつも突然だった。

何の前触れも無く、いきなりその時が来て
あまりにも残酷で、悲しくて、受け入れたくない現実が俺を襲い
有無を言わさず、それを受け入れろと言われているような状況になってしまった。



今回もまた・・・、それなのか。

こんな形で終わるしか無いって言うのか・・・!!

もう俺には・・・、どうする事も出来ないのか・・・!!!



つづく(次回は憂樹サイドストーリーです)



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