第百九十話・厳しき現実

俺は家に帰る途中、ずっと秋山に言われた事を気にしていた。



甘いと言う事を。



自分が無力なのは分かってたし
平凡極まりない人生を送って来たから人間的に甘いのも分かっていた。

ただ、あそこまでハッキリ言われてしまうと・・・さすがにショックだった。



秋山の言い分は、間違ってはいないと思う。

確かに、絶対に勝たなければいけない時は手段なんか選んでいられないだろう。
奇麗事にこだわって負ける、なんて馬鹿らしい。

奇麗事こそ俺の生き方だ・・・なんて言った事もあるが
それとはまた別の話だし。



憂樹もまた、そこを分かっている筈だ。

だからこそ仙台での総吉オジサンの挑戦状の時には
手段なんか選ばないで反則ギリギリの答えを出した。そして勝った。



必ずしもそれが正しい、とは言い切れないだろう。
勝たなければいけないと言っても、そんなのは個人の都合であって
それが許される事なのかどうか。
ましてや秋山のやり方は、人として許しちゃいけない事ばっかりだと思うし。



問題は、それを出来るかどうか、だ。

非情になる事、奇麗事にこだわらない事、それによって『手段』が浮かぶ事。
そして、甘さを捨てる事。

それはいわゆる『強さ』を持っているからだろう。
憂樹も秋山も、そこがあるから。甘さを捨てる事が出来ているから。

だから、今まで色々な事が出来た。結果を出す事が出来たって事なんだろう・・・。



憂樹や秋山は、俺なんかよりずっと強い。

憂樹は充分過ぎる程に分かってるけど、秋山も認めざるを得ない・・・。

そして目の前でその凄さを見せられると・・・、自分の無力さが情けなくなって来る・・・。

特に秋山に関しては許せない男である分、負けたくないという気持ちがあるけど
しかし力の差は歴然で・・・。それが余計に自分を自己嫌悪に陥らせていまう。

負けたくない相手なのに・・・、俺なんかよりはるかに強い。

悔しい。情けない。秋山以上に自分が憎い。
無力極まりない、甘ったれた自分が憎ったらしい。



まあ、自分ばっかりを責めてもしょうがない・・・。

それよりは、この悔しさをバネにして少しでも差を縮めるべきなんだ。

きっと憂樹にもそう言われると思う。



俺はそんな事を考えながら、家に入った。

「ただいまー」



・・・・・・。



「あれ？まだ誰もいないのか」

憂樹も母さんも帰ってないのかな。



俺は部屋に入ろうとしたが・・・。



「・・・！？」



憂樹の部屋から、声が聞こえた。

いや、声じゃないな。何だ？かすれるような・・・やっぱり声？



「憂樹？いるの？」

ドアをノックしてみた。

「・・・・・・」

・・・返事が無い。
おかしいな。いない筈は無い。

試しにドアを開けてみたら・・・、あっさり開いた。
鍵はかかってなかった。



部屋に入ってみると・・・
憂樹がベッドに突っ伏して泣いていた・・・。

「憂樹！？」

俺は慌てて憂樹の側に近付いた。

「・・・・・・」

憂樹は顔を上げた。顔を泣き腫らしてる・・・。
相当、大泣きしていた事が分かる・・・。

「憂樹・・・、どうしたんだよ？」
「まさ・・・と・・・」

憂樹は、俺の顔を見るなり突然抱き着いて来た。

「え・・・ちょ、憂樹！？」

さすがに驚いた。何だ。一体どうしたんだ。
頭が混乱してるのと、ドキドキして来たのとで自分でもよく分からない気分になって来た。



「お願い・・・。少しで良いから・・・、このままでいさせて・・・」
「ゆ・・・、き・・・？」




つづく

（※次回は、憂樹サイドストーリーです）



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