第三十九話・世間は狭い

「工藤さん！」
「こんにちは・・・」
「知り合いさんですか？」
「ええ、バイト先で一緒の人なんです」

ああ、やっぱり鈴木さんと山口さんだ。
出来れば俺の見間違いであって欲しかった。

山口さんが眼を丸くし絶句してる。
かなり驚いてるんだろうな。

「何でここにいるんですか？」
「このイベントに参加する為です」
「・・・そうですよね」

まさかとは思うが・・・
いや、もう間違い無いだろう。疑う余地なんか無い。

「あの、鈴木さん」
「はい・・・」
「もしかして、人と待ち合わせしてませんか？」
「してます」
「『リュウ』って人じゃないですか？」
「・・・そうです」

やっぱりか・・・。

「・・・はじめまして、『リュウ』です」
「工藤さんが・・・、リュウさんだったんですね」
「僕も驚きましたよ・・・」

世間って意外に狭いもんなんだな。
まさか一緒にバイトをしてる人が、パーティーでも一緒だなんて。

「あの、どっちがフィンさんで
　どっちがマッキーさんなんですか？」
「私がフィンですよ」
「私は・・・マッキーです」

鈴木さんがフィンで山口さんがマッキーか。
山口さんは、かろうじて声が出せたって感じだ。

「はじめまして。僕がレックスです」
「どうもはじめまして」

ちょっと太めの男の人だ。
この人が『レックス』さんか。
うん、この人は初対面だ。

とりあえず・・・、俺達は会場に入った。

会場の中は、とにかくあらゆる人達が雑談をしたりしている。
よく見ると、何か礼儀正しく頭を下げて挨拶をしてる人がいるな。
ああ、あれは交流か。憂樹がそんな事を言ってたな。

「何か・・・、凄い独特の雰囲気ですね」
「まあ初めての人はそんな感じになるかも知れないですね。
　私達は何度も来てるんで慣れましたけど
　慣れて来ると、いるだけで楽しくなりますよ」
「はあ」

そーゆーモノなのか。

俺達は、空いてる椅子に座る。

「前に、鈴木さんと山口さんが仲良くなった
　いきさつを聞いた事があるじゃないですか」
「ありましたね」
「その時、言葉を濁してましたけど
　『treasure』で知り合った、って事ですか」
「はい、そうです」
「山口さんが『秘密』って言ってたのは・・・」
「・・・何か恥ずかしかったんです」

なるほどな。そう言う事だったのか。

「私は随分前から『treasure』をやってたんですけど
　そこでレックスさんと知り合って仲良くなって
　せっかくだから優希子も誘ったんですよ」
「私も、面白かったんでハマっちゃいまして」
「別に隠さなくても良かったんですよ」
「いえ・・・、何か勇気が出なくて」
「まあ、いろいろとお互いの秘密が明かされたんですし
　今更遠慮とか無しにしましょうよ！
　仲良く行きましょう、仲良く！」

明るい人だな。
鈴木さんてこんな人だったのか。



しかしまあ、意外にも程があり過ぎる展開だ。
あまりにも予想外でとにかく驚いた。

偶然がこんな出会いを生むなんて。

この偶然が・・・、良い方向に進んで欲しい。

そしてそれが全てにおいて。

俺は、そう願わずにはいられなかった。



つづく



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