第四十一話・今までとこれから

・・・後ろを向けない。

俺が歩いていて、隣に山口さんがいる。
それは分かる。

でも鈴木さんとレックスさんはどうなってるんだ。
この二人も一緒に歩いてるのか。

それならこの位置関係は何も問題は無い。
いや、無い事も無いかも知れないけど。

それが確認出来ない。今は後ろを向いちゃいけない雰囲気だ。
もし鈴木さんとかと目が合ったりしたら何か妙な事になりそうだから。

「・・・あの。工藤さん」
「あ、はい」

助かった。
話しかけてくれたおかげで間が持った。

「何か、いろいろと気を遣わせちゃってすいません」
「え？ああ、別に気を遣ってるとかじゃないですよ。
　山口さんと話したいから話してるだけで」

・・・嘘だけど。
気を遣ってるとか、本人の前で言える訳が無い。

って、俺はいつからこんなにサラッと嘘がつけるようになったんだ。

「・・・ありがとうございます。嬉しいです」
「いえ・・・」

何だ。何か良い雰囲気じゃないか。

・・・うお、もう駅が！

どうしてあの会場はこんなに駅に近いんだ！！



「えーっと、じゃあ神奈川方面は僕だけですかね」
「そうですね。私達は東京ですから」
「それじゃあ、お疲れ様でした。またイベントで」
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でした」

レックスさんと駅で別れた。
俺と、鈴木さん、山口さんの三人になる。

とりあえず、途中まで三人一緒に帰る。

・・・女の子二人と一緒に帰るなんて初めてだ。
顔がにやけそうになるのを頑張って堪えた。

「あ、そう言えば携帯の番号って教えましたっけ？」
「いえ、アドレスだけですよ」
「じゃあ教えます。工藤さんの携帯にかけるんで番号出して下さい」
「はい。えーっと、これです」
「・・・どうぞ。それが私の番号です」

『フィンさん』と登録した所に入れて修正する。
鈴木華穂さん、と。

「優希子も教えたら？」
「・・・うん」
「あ、じゃあこれです」
「じゃあかけますね」

こっちは山口優希子さん、と。

そう言えば、バイト先で一緒だけど
携帯の番号やアドレスを教え合ったりはしてなかったな。
そこまで親しくしてた訳でも無いから当然なんだが。まだ二週間くらいだし。

「あ、工藤さん。メールアドレスも教えます」
「じゃあこれに送って下さい」

何か、一気に関係が進展したな。
少し前までバイト先の先輩後輩くらいでしかなかったのに
『友達』にまで上がったと言って良いかも。

「そうだ、工藤さん」
「はい？」
「これから、敬語使わなくって良いですよ」
「え？でも」
「どうせ私達の方が年下なんですし。ね？優希子？」
「そうですよ」
「はあ・・・」
「これからは同僚って言うよりも、『友達』としていきましょう」
「分かりました」
「はい、じゃあ決まり！」

早速タメ口か。切り替えが早いな。

しかし、今日で状況は大きく変わった。
今までとは明らかに違う。

バイトで会い、『treasure』でも会う。
・・・って、おいおい、一週間全部会う事になるじゃないか。
よく考えたら凄いな。

「じゃあ、私達はここで降りるんで」
「はい」
「敬語使ってる！」
「・・・おす」

急な切り替えが出来ないので、妙な言葉になってしまった。

「お疲れ様ー」
「お疲れっした」
「また、『treasure』で」
「へーい」

うーん、急に敬語からタメ口に変えるって難しいんだな。

鈴木さん達が降りた後、俺は一人になった。
まあ、俺が降りるのは隣の駅なんだけど。

ピピ

「ん？メールだ」

こんな時間に誰だ？憂樹かな？



おや。



・・・・・・。



山口さんじゃないか・・・。



つづく



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