第六話・強さの意味

「教えてくれ、憂樹・・・。どうすれば・・・、憂樹みたいに強くなれるんだ・・・？」

俺は、泣きながら憂樹に聞いた。
年下だとか、そんな事はどうでも良い。憂樹は俺の何倍も強い。
俺は強くなりたい。その為には・・・。
憂樹に生き方を教えて貰う事が今出来る事だと思った。

「・・・まさと。あなた、何か誤解してるよ」
「え？」
「私は強くなんかないよ。まさとは強いと思ってくれてるみたいだけど
　これは強いって言うんじゃないの。ワガママって言うんだよ」
「ワガママ・・・？」
「強いって思ってくれるのは嬉しいけどさ。でも違うんだよね。やっぱり。
　私みたいになったら、嫌な人間になっちゃうよ」
「俺は別に・・・、憂樹をワガママだなんて思ってないよ」
「よく考えてみなよ。その手の傷、私から触れておいて
　嘘だって分かったら怒り出してるんだよ、私」
「さっき怒ってないって・・・」
「怒ってたの」
「・・・・・・」

・・・確かにワガママな奴だと思えて来た。

「だからって全てにおいて我を通す気は無いからやるべき事はやるけど。
　つい出ちゃうんだよね、ワガママさが。
　徹底する性格な分、甘い人は許せないんだと思う」
「でもさ、さっき泣き出した俺を気遣ってくれたりとか・・・」
「だってあんなとこで泣かれたら、私まで恥ずかしいじゃない」
「・・・！！」
「細かいとこまで聞かないって言うのも、単に深入りしたくなかっただけ。
　自分から話すとは考えにくかったしね」

・・・だんだん、目の前が暗くなって来た。頭が正常に働かない。

「分かったでしょ。私はこんな人間なんだよ。
　確かにまさとに比べれば私の方が強いかも知れない。
　でもそれは、良い意味での強さじゃなくって悪い意味での強さなの。
　強くなる為に何かするってのは良い事だけど
　私みたいなのを手本にしたら汚れるよ」
「汚れ・・・るって・・・」
「こう言う話にいちいち動揺する辺り、まさとは凄く純粋なんだね。
　今時珍しいな。だからこそ、私みたいになっちゃいけないんだよ。
　強くなれるからって汚れる事は無いよ」

あれ・・・？

何か・・・違和感が・・・。

「さ、そんな訳で今日はもう疲れちゃったから寝たいんだけど。まだ何かある？」
「いや・・・、別に・・・」
「じゃあ、今度こそおやすみなさい」
「・・・おやすみ」

俺は憂樹の部屋を出て自分の部屋に戻った。

断られたか・・・。
やっと進むべき道が見えて来たと思ったのに・・・。

・・・これはフラれたカウントに入れなくって良いんだよな。

それにしても・・・、憂樹はあんな奴だったのか。
優しくて強い、凄い奴だと思ってたんだけど・・・。さすがにショックだ。

でも・・・。
何だろう、この胸のモヤモヤは。さっき感じた違和感みたいなモノのせいかな。



ドクン。



・・・あれ？



ドクン。



何か・・・おかしい。

頭の中で・・・何かが・・・。

『こう言う話にいちいち動揺する辺り、まさとは凄く純粋なんだね。
　今時珍しいな。だからこそ、私みたいになっちゃいけないんだよ。
　強くなれるからって汚れる事は無いよ』

・・・！！！

俺の頭の中に、ある仮説が浮かんだ。
もしこれが当たっていれば・・・、アイツは・・・、憂樹は・・・。



俺はこの夜、一睡も出来なかった。
でもそのおかげで8時間以上も考え事が出来た。

そして・・・、仮説は確信に変わっていた。



つづく



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