第百七十五話・当然の反応（前編）

俺は、家に帰って来た。

藤井さんに告白されて、その返事をどうするかが問題なんだけど・・・
その前に、また別の問題をどうにかしないといけない。

憂樹に藤井さんに抱き着かれてる所を見られてしまった・・・。

これはどうしたら良いんだろうか・・・。

いや、どうするも何も無いじゃないか。
憂樹に言い訳でもするつもりなのか。嘘でもつくつもりなのか。
そんな事をしても簡単に見抜かれるのは実体験済みだ。

でも・・・。
いざ、接する時になると迷いが生まれてしまう。

憂樹への想いを貫くのか
藤井さんの告白を受けるのか・・・。

その迷いが、憂樹と接する時においての
新たな迷いを生んでしまっているんだろう。



・・・何か俺、最低だ。
憂樹と藤井さんを天秤にかけている。

俺は憂樹が好きなんじゃなかったのか。

もう、憂樹がいないと生きていけない、くらいに
想ってたんじゃなかったのか・・・。



藤井さんの告白を受ければ付き合える事は確定する。
言い方を変えれば、確実性があるって事なんだ。

それに対して憂樹は
確実性が無いと言って良いだろう。
どれだけ長い間アレコレとやったとしても
憂樹が俺と付き合ってくれるとは限らないんだ。

百歩譲って、いつか付き合ってくれるとしても
その『いつか』は、いつになるのか・・・。



損得で考えれば・・・
藤井さんと付き合う方が、はるかに得だろう。

でも俺は・・・
損得勘定だけで決めたりはしない、と決めてるんだ。

決めてるんだけど・・・
どうしても、そんな損得勘定で考えてしまっているらしい・・・。

その結果、迷いが生まれているんだろう。



・・・本当に最低だ。
最低だし最悪だ。

信念を貫く事も出来ないのか俺は・・・。



カチャ



「何やってんの？」
「あ・・・！」

家のドアの前まで来たけど
憂樹に対してどうすれば良いか迷ってたら・・・憂樹にドアを開けられてしまった。
もしかしたらブツブツ言ってたのかな・・・。
それが聞こえてたとかで・・・。



「入んないの？」
「いや・・・、入るよ」

俺は中に入った。



・・・・・・。



「憂樹！」
「ん？」

俺は勇気を出して聞いてみる事にした。

さっきの事をどう思っているのか。

ただ、今の時点で既に反応は
いつも通りだが・・・。



「さっき・・・さ。海浜公園で・・・」
「あー、はいはい」
「変なとこ、見られちゃったよね・・・」
「びっくりしたよ。いきなり抱き着かれてるんだから。
　まさとも何気にやるんじゃない。このこの」

・・・・・・。

「その・・・女の子の事なんだけどさ」
「あー、相談に乗ってあげた子じゃないの？」
「・・・！
　何で知ってるの！？」
「知ってるとかじゃないよ。
　ただ、そんな気がしただけ。今、まさとが一番仲良くなる女の子って言えば
　その子の可能性が高いでしょ？
　相談に乗ってくれて良い人、って思ってるだろうし、彼氏と別れたって言ってたし。
　これで好意を持たない訳が無いじゃない」
「いや、まあ・・・
　それはそうなんだけどさ・・・」



憂樹の反応は・・・
極めて『普通』だった。



『普通』と言うのは、いつも通りの・・・
『いつもの憂樹』だと思わせる反応だった。



それは、ごくごく自然で
むしろ『当然』だと言うべき反応だったんだけど・・・。



俺は、何故かその『普通』であり『当然』の反応が・・・
悲しくなってしまった。



憂樹に・・・
やきもちでも妬いて欲しかったのか俺は・・・？



つづく




　　　　　

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