第百三十六話・四面楚歌

新幹線が発車してしばらく経った。
憂樹と二人っきりだから、ちょっとドキドキしてる。

何か話さないと・・・。

「あのさ、憂樹」
「ん？」
「あいつらの・・・、名前って何だっけ？」
「え、忘れたの？」
「忘れたって言うか、覚える気が無かったから・・・。
　正直、どうでも良かったし」
「まあ確かにね」
「憂樹は覚えてるんだろ？」
「もちろん」
「じゃ、ちょっと教えてくれないかな・・・」

本当の事だった。
別に話題を作る為に言った訳じゃない。

「上から、秀一、晋哉、透、和美だよ。
　顔は分かるの？」
「それは分かる」
「じゃあ、顔と名前は一致する？」
「・・・何とか」
「ま、一致しなくても名前さえ分かれば何とかなるけどね。
　名前を呼べば向こうは返事とかするでしょ。つまり、反応した人がそいつって訳」
「なるほどね・・・」

また、反則に近い事を・・・。

「ふぁ・・・」
「あれ？憂樹、眠いの？」
「三連休取るのに、仕事をまとめて片付けたからね。
　昨日も結構遅くまでやったから・・・」
「じゃ、寝てなよ。仙台までまだ相当あるよ」
「そうだね、そうするよ」
「うん。俺も眠くなったら寝るし」
「じゃあ寝ます。おやすみ・・・」

憂樹は寝てしまった。
少しすると、寝息が聞こえて来た。

憂樹は緊張してないのかな。
俺は結構緊張してて、正直眠れないんだけど・・・。

ましてや、憂樹がすぐ隣にいるこの状況が
ますます俺を緊張させてる・・・。



「憂樹、もうすぐ着くよ」
「ん・・・、ありがとう」

結局、俺は全然眠れなかった。
ずっと起きたまま仙台に着く事になってしまった訳だ。

まあ、憂樹の寝顔が見れてたから良かったんだけど・・・。可愛かったし。



俺達は駅を出た。

「えーっと、ここからどうするんだっけ」
「迎えに来て来れるって言ってたけど・・・」

周りを見てみたけど、誰もいない。

「・・・来たよ」
「え？」

言われて横を向くと、四人がこっちに来た。

「よう、雅博。憂樹。久し振りだな」
「・・・久し振り」
「久し振りだね、秀一」

こいつが秀一か。顔は覚えてる。でも名前が一致しなかった・・・。
憂樹が言ってくれなかったら危なかった。

「わざわざ東京から、お疲れさん」
「大変だったでしょー」
「ありがと。でもそんなに大変じゃなかったし」

一人だけ女の子がいる。こいつが和美だ。それはすぐ分かる。

「一緒に来るなんて仲が良いんだな、お前ら」
「まあ、同じようなレベルの人間同士、気が合うって事なんだろ。ははは」

消去法で、こいつらが晋哉と透だと分かる。
でもどっちがどっちだか・・・。

「あら、それを言ったら、あんた達こそ四人一緒に来るなんて相当仲良しこよしじゃない」
「な・・・！」

うっわー・・・。

さすがと言うか、強気な切り返しだ・・・。

「じゃあ、早速行こうぜ。総吉オジサンが待ってるしな」
「そうそう。行きましょ」

秀一は、一番年上なせいかそれなりに大人っぽい雰囲気がある。
とは言っても、嫌味を言ったりする点は大人気ないと思うが・・・。

あと和美がいちいち秀一に合わせて物を言ってるのが気になった。



周りはこんな連中で、味方がほとんどいない。
俺にとっては憂樹だけ。

正に四面楚歌だ。

でも不思議に・・・、不安は感じない。

憂樹がいれば、何も怖くない。何でも切り抜けられる。

そんな気がしてたからかな・・・。



つづく

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