第百四十一話・不可能

「ところでさ・・・、さっき秀一達と言い合いしてた時に
　何だっけ。『頭が良ければ解ける訳じゃない』とかって言ってたよね」
「ああ、あれね」
「それってどう言う意味なの？そんなに難しい問題なのあれって？」
「難しいなんてもんじゃないよ。相当、意地悪な問題だよ」
「・・・そうなんだ」
「あれは『エピメニデスの嘘つきパラドックス』って言うんだよ」
「嘘つきパラドックス？」

そう言えば、秀一達もそんな事を言ってたな。

「エピメニデスってのは？」
「ギリシャの預言者だよ。哲学者だって言う人もいるけどね」
「あ、人名なんだ」

俺はそこから分かってなかったんだよな・・・。

「で、意地悪って言うのは？」
「さっきの文、メモとか取っておいた？」
「ああ、ここにあるよ」
「じゃあ、それを読み直して、試しに誰が正しいか考えてみなよ」
「分かった」

えーっと。



ある時ヤギが言った。

ウソがいつまでも見抜けないとき
ウソをついているのは私ですよ

次に獅子が言った。

ヤギが嘘つきならば次に龍が言うこともウソである。

最後に龍が言った。

もし私のウソを見抜いていると言う者がいたら
それは正しい。

この中で、正しい事を言っているのは誰？



・・・・・・。

・・・・・・。

「ヤギ、かな」
「何で？」
「いや、自分で言ってるじゃん。嘘をついてるのは自分だって」
「それはおかしくない？それが正しかったら
　『嘘をついてる』って言い分が間違ってる事になるんだよ。
　ヤギは嘘をついてるの？正しい事を言ってるの？」
「あ・・・、そうか・・・」

じゃあ・・・。

ヤギが嘘つきだと仮定すると、獅子の言い分から龍も嘘つきになるか。

あれ？龍は「それは正しい」って言ってるぞ。
じゃあ獅子の言い分もヤギみたいにまた矛盾する訳だから・・・。

ヤギが正しいとすると・・・、いや違うな。嘘つきって言ってるし。

・・・・・・。・・・・・・。

・・・あれ！？

「ねえ・・・。これ、何か答えが出ないって言うか・・・
　辻褄が合わないんだけど」
「そりゃそうよ。それ、正解なんか無いんだもん」
「え！？」

正解が無い・・・？

「どう言う意味？」
「これは『論理的矛盾』って言って
　簡単に言うと・・・、絶対に矛盾が出て来る論法なんだよ。
　誰が正しいかとか、正解は出せないの。
　まあ、色々と補足とかを付け足して答えを出すだけなら出来るけど
　それでも『それはおかしい』って反論する人も出て来るし」
「え・・・、じゃあこんなの出来る訳無いじゃないか」
「そう。そこを言ってるんだよ。
　これは頭が良いとか、知識があるとかそんな次元の問題じゃ無いの。
　いかに上手い答えを出すか、が問題なんだよ」
「上手い答え・・・」
「総吉オジサンだって馬鹿じゃないんだし
　この嘘つきパラドックスの問題がどんなのかは知ってる筈。
　正解が出せないって事もね。
　何度も言ってる『勉強が出来れば良いってもんじゃない』ってやつだよ」
「・・・・・・」

確かに・・・、勉強が出来れば解けるモノでも無い、か・・・。

「じゃあ・・・、どうすれば良いのかな」
「総吉オジサンの望む通り、納得行く答えを考えるしかないだろうね。
　どうにかして矛盾する部分を説明出来る答えを。
　さっき頭ガチガチで出来るの？ってあいつらに言ったけど
　やたらと学歴とかにこだわるあいつらに
　こんな柔軟さが要求される問題が出来るの？って事だったんだよね」
「なるほどね。そう言う事か」

しかしなあ・・・。
俺達はどうすれば良いのか・・・。

「憂樹は答えとか考えてあるの？」
「まだだよ。こんなので来るなんて思わなくって驚いちゃってたからね。
　何とか良い答えを出さないと。でもかなり苦戦しそうだよ」
「そっか・・・」

憂樹でも苦戦しそう、か・・・。

でも俺も、さすがに憂樹に頼ってばっかりじゃいかんよな。

「とりあえず・・・、俺は自分の部屋に戻るよ。
　じっくり考えてみたいから」
「え、何で？二人で考えようよ」
「いや・・・」

俺もそうしたいけど・・・。

「やっぱり俺個人に出された問題でもある訳だからさ。
　俺も自分で答えを出さないといけないと思うし」
「へー・・・、立派じゃん」
「ありがとう」



秀一達に負けたくないって言うのがあるんだけど
憂樹にも勝ちたいって言うか・・・。

頼ってばっかりじゃなく、俺の力で勝負して
その上で結果を出さないといけないから
ここは自分で答えを出さないと・・・。



つづく



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