第七十一話・夢と魔法の王国（後編）

俺と憂樹は、シンデレラ城を中心に左回りに見て行く事にした。

アドベンチャーランド→ウェスタンランド→クリッターカントリー
→ファンタジーランド→トゥーンタウン→トゥモローランド。

・・・さすがにディズニーランドは広いな。
見るだけなのに相当な時間がかかった。

だが、それよりも・・・。

「見えた！イッツ・ア・スモールワールドだ！乗ろうかなあ」
「・・・・・・」

たまに、憂樹が『素』になるとでも言うか・・・
いつもの知的な所ではなく、普通の女の子っぽい所を見せるので
ちょっと新鮮な感じだ。

「あれ好きなの？」
「うん、一番好きだね。カワイイじゃん。
　『小さな世界』が聞こえて来るとこなんて、感動するでしょ。
　しかもクリスマスの頃に来ると、違うバージョンが見られるんだよ」
「はあ・・・」

意外だな・・・。
憂樹にこんなにカワイイ一面があったなんて・・・。

ちょっと失礼な話かも知れないけど・・・。

「ちなみにですね」
「はい？」
「スペースマウンテン、あるでしょ。
　あれ、4月28日にリニューアルオープンするんだよ」
「へー」
「だから今は乗れません。ほら」
「あ、ホントだ！」
「カリブの海賊も、5月7日から7月20日まで長期リハブに入って
　それ以降は『パイレーツ・オブ・カリビアン』の内容を取り入れたものになるんだって」
「そうなんだ・・・。って、『リハブ』って何？」
「専門用語。メンテナンスとか改良とかで休止になる事をそう呼ぶの。
　一般には『クローズ』って言うんだけどね」
「専門用語なのか・・・」

こう言う風に詳しいのは、好きだからこそ、って事なのかな。

と言うか、そんな事まで知ってるなんて・・・。



とりあえず一周した俺達は、シンデレラ城の前に来た。

「さて。そろそろ、どっかでご飯食べようか」
「そうだね。腹減ったよ」
「じゃあ、バンケットホールに行く？ここから近いし」
「ああ、一番好きだって言ってたとこね。良いね、行こうか」

さっき通ったけど、シンデレラ城の後ろにあったのか。
歩き回ると位置の感覚が混乱して来て
今いる場所からどう行けば良いのかとかが分からなくなる事があるな・・・。

ここがクィーンオブハートのバンケットホールか・・・。
なるほど。確かにシンデレラの世界観が大きく出てる。

俺と憂樹は、料理を取ると空いてるテーブルに座った。
休日だけあって結構人がいる。

「とりあえず一通り見たね」
「そうだね」
「どう？今のディズニーランドを把握出来た？」
「まあ・・・、何となく」
「後でガイドブックを読んで思い出しながら情報を整理すると良いよ」
「そうします」
「で・・・」
「はい？」
「案内してあげたいって事なので、ここで私なりの総合的なアドバイスをあげましょう」
「・・・御願いします」
「結論から言うと、知識を詰め込んでひたすら計画的に回るって言うのはダメだね」
「え？」
「例えばタイムテーブルを組んで、とにかくそれに沿って進む。
　何時にこのアトラクション、次にここ、その後あそこのレストランに行って食事。
　そう言うのを律儀に守ろうとしちゃいけないって事」
「・・・そうなの？」
「だってつまんないじゃない。そんなガチガチした回り方なんて」
「まあ・・・、そうかも」
「そりゃあ、確実性で言えばそれが一番だけどね。それは『無難』って事でしかないの。
　『楽しむ』って意味で考えればそんなのじゃ楽しめないよ。少なくとも私はね。
　覚えておくのは、パレードとかショーの時間。
　それを見る為に準備する事を心掛けておく程度で良いんだよ」
「へー・・・」
「最初にファストパスでアトラクションに乗る時間を細かく決める人もいるけど
　その時の気分によって『こっちに乗りたい』って言うのがあるでしょ。
　問題は、その時々によってどんな対応が出来るかって事なの。
　最初にカリブの海賊に乗る事を予定してても
　その子がまずスプラッシュマウンテンに乗りたいとか言い出したらどうするの？
　却下してカリブに先に乗らせるの？乗りたくないかも知れないじゃない」
「そうだよな・・・」
「ま、事前にその子と計画を立てておけばそんな事は無くなるだろうけど・・・
　私は、その時乗りたい物に乗るって方が好きです。私なりの意見ですが。
　何時間も乗れないって言うなら、ファストパスを使って後回しにすれば良いし。
　あ、目的地がパッと出ないで探し回るって言うのは何気に大きいタイムロスだから
　そこが早めに出るようになると良いよ」
「・・・奥が深いなあ」
「やっぱり見ておきたいショーと言えば、15時のデイパレード。
　19時半のエレクトリカルパレード、20時半の花火だよね。
　その時間に間に合うようにアトラクションを回って
　時間が近付いたらパレードルートのそばに待機すると良いです」
「・・・パレードルート？」
「パレードが通る道の事。その近くにいるとパレードがよく見えるの」
「それも専門用語なの？」
「これは結構メジャーな言葉だから、専門用語って程でも無いんじゃない？」
「そうですか・・・」
「花火はね、エレクトリカルパレードが終わった後にそのまま動かなければ
　良い感じで見られる事が多いよ。
　でも木とか建物で邪魔になる事もあるから、とりあえずお城がよく見える場所。
　これが『パレードも花火も楽しめる場所』を取るコツです」
「覚えておきます・・・」
「ま、分からなくなったらゲスコンとかカストに聞けば良いし」
「・・・それは何？」

分からない言葉がポンポン出て来る・・・。

「『ゲスコン』は、ゲストコントロールキャスト。いわゆる案内係です。
　パレードの時間が近付くと出て来て呼び掛けとかしてるよ。
　『カスト』は、カストーディアルキャスト。こっちは清掃してる人達。
　パーク内のどこにでもいるし、別名『歩く案内板』とまで言われてるから
　何でも聞いて良いんだよ。調べて絶対に答えを出してくれるからね」
「なるほどね」
「・・・ごめんね。つい、まさとが知らない言葉で言っちゃって」
「いや、別に気にしてないし大丈夫だよ」
「何か興奮しちゃってね。気を遣う事が疎かになっちゃうって言うか・・・」
「へえ？」

珍しいな。憂樹がそんな風になるなんて。
俺のイメージは『常に冷静に、細かく考えて話したり行動する人』なんだけど。

それほどディズニーが大好きだって事か。

「勉強になった？」
「かなり」
「じゃあ・・・、そろそろ終わりにしようか」
「へ？」
「ここからは、遊びに行きましょう！せっかく来たんだから」

・・・やっぱり遊びたかったのか。
さっきからウズウズした顔してたもんな。

「・・・あれ？俺も付き合えと？」
「当然です」

『当然』なんですか・・・。

「色々と教えてあげたんだから、付き合いなさい」
「はい・・・」

ま、嫌じゃないから構わないんだけどね。

「まずはイッツ・ア・スモールワールド行こうか！隣だし！」
「・・・お供します」



さてと。

色々と教わったし、本番でこれが役に立てられると良いな。

まだいつになるか分からないけど・・・。



つづく



↓宜しければ押してやって下さい