第七十二話・別れの後に起こるもの

今日は久し振りに『treasure』でみんなが集まった。

最近、何だかんだで全員が揃う事が無かったからな・・・。

だが。
そんな久し振りに集まった日に、めでたくない事が起こった。

『あのね、レックスさんが言いたい事があるんだって』
「言いたい事？」
『何ですか？』
『フィンさんはもう知ってるんですけど・・・
　実は、僕はここを退会しなきゃいけなくなっちゃいました』
「え、『treasure』やめちゃうんですか！？」
『はい』
『どうしてですか？』
『仕事の都合なんです。異動で、夜勤になっちゃいまして
　これからはいつもの時間に出来ないんですよ』
「ちょうど仕事の時間になっちゃう、って事ですか」
『そう言う事です』
『そうですか・・・。残念ですね。せっかく仲良くなれたのに』
『私も聞いた時はビックリしたよ』
「休みの日とかに出来ないんですか？」
『それだと週一か週二くらいが良い所ですからね。
　そんな中途半端よりは、スパッとやめようと思いまして』

なるほどね。
・・・何か男らしいな。

『でもさ、別にやめなくても済むんじゃないの？
　他の人とパーティー組めば良いじゃん？』

それもそうだ。一理ある。

『それだと未練がましいですから。素直に退会しますよ。
　今更別の人とパーティーを組むのも気が引けますし』

何か分かる気がするな、その気持ち。
俺もこのパーティーを抜けなきゃいけなくなって
じゃあ他の誰かと組むって言うのは想像が出来ない。

・・・山口さんがいる事と、鈴木さんと親しくなったせいもあるけど。

『そっか・・・、じゃあ仕方ないか』
『フィンさん、マッキーさん、リュウさん。
　短い間でしたけど楽しかったです。ありがとうございました』
『いえ、こちらこそ』
『私も楽しかったよ』
「新しい所でも頑張って下さいね」



レックスさんは、そのままログアウトしてしまった。

俺と、鈴木さん、そして山口さんの三人が
『treasure』に残った形になった。

「さて・・・、これからどうする？」
『どうしよう？別の人をパーティーに入れる？』
「俺は、このままでもバランス的に問題は無いと思うんだけどな」

と言うか・・・。
正直、今更別の人に入って来て欲しくないって言うのがある。

『私も工藤さんの言う通り、今のままで良いと思うよ』

ありがとう、山口さん。何か嬉しい。

『じゃあ、一応このままって事にしようか。
　機会があれば別の人を入れるかも、って事で』
「うん、それが良いよ」
『私も賛成』
『じゃあ決まりだね』

良かった。ちょっと安心した。

「あ、ねえ鈴木さん」
『なーに？』
「何で鈴木さんは、レックスさんがやめるって先に知ってたの？」
『言ってなかったっけ？
　私、レックスさんとは随分前から親しいんだよ』
「ああ、それは言ってたね」
『カラオケとかよく行ってたし』
「え、じゃあ前に言ってた最長の12時間のって・・・」
『そう。レックスさんと行ったの』

そうだったのか・・・。
レックスさんも、俺みたいに色々振り回されてたのかな。

『だからレックスさんは、まず私に言ったの。
　言い辛いなら私が代わりに言おうか？って話にもなったし』
「なるほどね」
『やめた後でもメールとか連絡はするけどね。
　プライベートでも仲の良い友達だから』
『あ、私・・・、結局レックスさんと会ったのって
　あんまり無かった・・・』
『そうだよね。三～四回ってとこじゃない？』
「・・・俺は一回だけだよ」
『あ、そういやそうだ！』

・・・こんな話で盛り上がって良いのかな。

『そうだ、今度の日曜にまたイベントあるけど行く？』
「良いよ。この前と同じとこ？」
『そうだよ』
『私も行こうかな』
『くどっち、お金貸してね』
「こないだ給料出ただろ！」
『色々と大変なのよ～。女の子は』
「どんな理由だ、そりゃ・・・」
『ま、良いでしょ？』
「・・・良いよ」
『ありがと！』

ああ、弱いなあ、俺・・・。

『お礼に、また友達紹介してあげるから』
「女の子なの？」
『男だよ』
「それ、あんまり嬉しくないんだけど・・・」

よく考えたら、俺と山口さんをくっつけたがってる鈴木さんが
俺に女の子を紹介する訳が無いな・・・。

「と言うか、友達そんなにいるんだ？」
『私、結構長いからね。パーティーを組んでないだけで
　友達だけは多いんだよ』
「なるほどね」
『今度のイベントは、ガッティさんが来るらしいから』
「ガッティ？」
『それ、誰？』
『あ、優希子にはまだ紹介してなかったんだっけ。
　レックスさんと同じ頃に知り合った人』
『そうなんだ』

鈴木さんは何気に交友関係が広いんだな。

明るい性格だし、友達が出来やすいのかも知れない。



とりあえず・・・。

俺が山口さんを狙ってる事は気付かれないようにしないとな。



つづく



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