第七十六話・御咎め無し

・・・あれ？

しまった。寝ちゃってた。

憂樹に電話して、山口さんにメールを送った後に戻って来て
する事が無くて暇だな・・・なんて思ってたとこまでは覚えてるけど
その後、うっかり寝ちゃったらしいな。

そう言えば一睡もしてなかったもんな・・・。

うわ、もう11時じゃないか。

山口さんはどうしたろうな。
病院の中なんで携帯の電源を入れられなくてメールの返事が見れない。

「あ、お目覚めですか？」
「え？」

さっきの看護婦さんだ。

「お連れの鈴木さんですけど、さっき診察が終わりましたよ」
「あ、そうだったんですか」
「でも、あなたがお休みになられてたので
　それをお伝え出来なくって・・・」
「・・・すいません。僕も昨夜は寝てなかったもので、うっかりと」

とんだ所を見せてしまった・・・。

「大丈夫ですよ。彼女もしばらく眠ってましたから。
　少し前に起きたんで、もうお話出来ますけどどうしますか？」
「じゃあ、会っても良いですか」
「では、こちらへどうぞ」

診察室の中に入ると、鈴木さんがベッドに寝ていた。

「鈴木さん？」
「あ、くどっち・・・」

元気の無い声だな・・・。

「ごめんね、迷惑かけて・・・」
「別に構わないよ、このくらい」
「今日イベントなのに・・・、もう始まってるよね？
　どうしよう・・・」
「さっき山口さんにメールで事情を説明しといたし大丈夫だよ」
「ホント、ありがとう・・・」
「いやいや」



とりあえず俺と鈴木さんは、タクシーを呼んでもらい
それで帰る事になった。

鈴木さんは、まだ足がフラフラしてる。ちょっと心配なくらいだ。

「鈴木さんの家まで送ろうか」
「いや・・・、家のおじいちゃんとおばあちゃんって
　付き合ってもない男の人を家に呼ぶと怒るんだよ。
　だから逆に来ない方がありがたいなぁ・・・」

そりゃまた、筋金入りの堅物さんですこと・・・。

「ごめんね、せっかく送ってくれるのに・・・」
「いや、余計な事になるんだったらしない方が良いしね」
「くどっちは途中で降りて、私がそのまま乗って家に帰るよ」
「じゃあほら。タクシー代。二千円もあれば足りるでしょ」
「ありがとう・・・」
「ところでさ。さっき、何で倒れちゃったの？」
「『フラッシュバック』って知ってるかな？」

ええ、さっき聞きましたから・・・。

「・・・一応。過去の事を思い出しちゃうって事だっけ」
「うん、そう。
　くどっちの話を聞いてたら、それが来ちゃってさ・・・。
　薬飲んどけば良かったんだけど・・・、忘れてて。
　まさか来るとは思ってなかったってのもあったし」

・・・って事は、やっぱり憂樹の推測通りだったって事か。

「じゃあ、俺のせいって事なんだろ？ごめんね」
「くどっちは悪くないよ。私が聞きたくって話させただけなんだしさ」
「でもドタキャンもさせちゃった訳だし・・・」
「ああ、イベントね。自分で言うのも変だけど・・・しょうがないよ。
　優希子には私からも謝っとくし、ホント気にしなくて良いんだよ」
「なら良いけど・・・」



俺は、いつもの駅の前で降りた。

「じゃあ、今日はバイトも無いんだしゆっくり休みなよ。
　落ち着いたらまた電話とかして」
「ありがとう。じゃあね」

タクシーはそのまま鈴木さんを乗せて行ってしまった。

あ、そうだ。携帯の電源入れてメール確認してみないと。

・・・やっぱり来てたか。山口さんからの返事が。

『華穂ちゃん、倒れたんですか！？何があったんですか？』

ヤバイ。早く返事が欲しそうな内容なのに今まで返してなかった。

『すいません。病院にいたんで返事が出来ませんでした。
　ちょっと説明が難しいんで、鈴木さんに直接聞いてみて下さい。
　山口さんに謝るって言ってたんで、後で連絡がある筈です』

・・・と。送信。

まあ、これで分かってくれ・・・

ピピ

うわ、もう返事が来た。
こりゃ相当待ってたんだろうな・・・。

『分かりました。ありがとうございます。
　詳しい事は華穂ちゃんに聞きます』

ちょっと微妙な書き方だな。
怒ってると取れなくも無いような・・・。



ま、とりあえずみんな納得したんだし・・・。

これはこれで解決・・・だよな？



つづく



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