第七十九話・問題アリ

「おはよ、くどっち」
「おはようございます、工藤さん」
「おはようございます・・・」

バイトに来たは良いけど、昨日から心にモヤモヤがかかったままだ。
どうもスッキリしない。

・・・・・・。

「山口さん」
「はい？」
「昨日、カラオケ行ったそうですね」
「行きましたよ」
「楽しかったですか？」
「はい。私、あんまり行かないんですけど楽しかったです」
「優希子、結構はしゃいでたよね」
「そうですか・・・」

そんなに楽しそうに言わないで下さいよ・・・。

そんな事を考えちゃう俺は、どうかしてるのかな。
大人げないとでも言うべきなのかな・・・。



「工藤さん、これ持ってってもらって良いですか？」
「はい」
「・・・・・・」



「くどっちー、さっきのやつ持って来てー」
「ん」
「・・・？」



自分でも分かった。

明らかに不機嫌そうな態度を取ってしまっている事を。
そして二人とも、そんな俺に驚いている事も。

・・・最低だな、俺って。



「じゃあ、工藤さん。お疲れ様でした」
「バイバイ、くどっち」

二人とも仕事が終わると、すぐに帰ろうとした。
さすがに嫌な気分にさせちゃったか。

「ねえ、二人とも」
「・・・はい」
「何？」
「ごめんね、何か今日イライラしてて」
「・・・はあ」
「どうかしたの？」
「ちょっとね・・・。色々あって」

君らが原因で、とは言えなかった。
そもそも、そんな風に感じるのは俺の一方的な感情なんだ。
どっちが悪いかと言えば、間違い無く俺だ。

それは分かってるけど・・・、それでも割り切れないと言うか
全然スッキリしないし、むしろ余計にイライラして来た。

でもそれを必死で抑え、無理に普通を装った。

「ホント、ごめん。気にしないで」
「分かりました」
「ま、気をつけてね」

そう言うと、二人とも帰ってしまった。

笑ってなかったな・・・。ちょっと、マズイかな・・・。

でも俺は、そんな現実にすら苛立ちを感じてしまっていた。

・・・本当にどうかしてる。



「ただいま」
「あら、おかえり」

憂樹が帰って来てる。

「憂樹、昨日会社に泊まったんだろ？」
「そうなんだよねー、急に仕事が入って片付かなくって」
「大変だね」

・・・ちょっと言ってみるか。

「あのさ、憂樹」
「ん？」
「・・・何で昨日、会社に泊まるって事を俺には教えてくれなかったの？」
「だって電話中だったじゃない」
「え」

・・・鈴木さんと話してた時か。

「だからおばさんに話したの。そうすれば、まさとにも伝わるでしょ」
「まあ、そうだけど・・・」
「どうかしたの？」
「せめてメールで教えてくれるとか・・・」
「だって急に決まって忙しかったんだよ。電話した時だってギリギリだったし。
　余裕が出来たのって夜中の1時過ぎで、その時間ならもう知ってるだろうって思ったから」

そう言う事か。まあ間違った事はしてない、か・・・。

「何か不満でも？」
「いや、まあ・・・。正直、俺に言ってくれなかった事が面白くなくって」
「・・・またえらく子供っぽい事を言うわね」

・・・年下の憂樹に言われると悲しくなる。

「ごめん・・・。ちょっとどうかしてた」
「何かあったの？」
「いや、別に・・・」
「無いなら、どうかする訳無いでしょ」

さすがに鋭いな。

「まあ、確かにちょっとあったけど・・・」
「何？」
「いや大した事じゃないよ。確かに俺がガキみたいだった。もう大丈夫だよ」
「そうなの？なら良いけど」



また嘘をついてしまった・・・。

ガキっぽいのは認めるけど・・・、『大丈夫』ではなかった。

まだ俺の心には、嫌なモヤモヤが残ってた。



つづく



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