第八十三話・約束

とりあえず・・・
ガッティの事をちょっと調べてみるか。

憂樹が、きちんと相手の事を知っておけば
負ける事は無いって教えてくれたしな。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」だったっけ。



まずは、『treasure』だな。

えーっと、ガッティが使ってるのは・・・。

・・・『パラディン』！？

何だパラディンて。そんなのいたっけ？

憂樹に聞けば早いんだろうけど、ここは自分で調べるか。

なになに。

パラディンってのは聖騎士の事。
最初から使える訳では無く
クラスチェンジをする事によって使えるようになる、か。

確かにこんなのいきなり使えなかったもんな。
鈴木さんのダークエルフみたいなものか。

俺は・・・なれないのか。
結構、条件が厳しいんだな。

そう言えば憂樹が言ってた事があったな。
夏にウォーリア対象のイベントがあるって。
俺も今度のイベントで何かしようかな。



よし、次はmixiだ。

・・・相変わらず山口さんの日記には毎回コメントをしてるな。
山口さんは毎日書く訳じゃないけど、書けばその度にコメントか。
マメと言えばマメだけど・・・。

俺はこれを真似する訳にはいかないな。
今までそんな事してなかったのに、急にやったら
対抗心を剥き出しにしてるのが丸見えだろう。

でもそれより、このコメント・・・。

歯の浮くようなお世辞を言ったり、わざわざ同意を求めるような事を言ったり・・・。
よくこんな事を恥ずかしげも無く出来るもんだ。
『愛の詩』なんて書いてるだけの事はある。



とりあえず、これで確定だな。
ガッティも山口さんを狙ってると考えて間違い無い。
短絡的なだけあってやってる事が単純で分かりやすい。

お前みたいな奴に・・・、山口さんの心を動かせるもんか。
自分の事しか考えず、人を陥れようとするお前なんかに。

・・・ん！？

アイツ、また俺のページに来てるのか・・・。
自分はこっちをアクセスブロックしてるくせに。
解除は・・・されてない。当たり前か。

挑発のつもりか。また俺が何か言ってくる事を狙ってるのか？
今度はそう簡単には引っ掛からないぞ。
お前がそう言う卑怯者だと分かれば、こっちも対応が出来るんだから。



次の日。

俺はいつものようにバイトで鈴木さんと山口さんに会った。

「おはよう」
「・・・おはよ」
「おはようございます・・・」

予想通り、二人とも俺を妙な目で見ている。
多分、俺の事を嘘つきとか卑怯者とか思ってるんだろうな。

それは全く逆なのに。嘘をついているのも卑怯者なのもガッティなのに。

まあ良いさ。そんなものはすぐにボロが出る。
近い内に自滅するのがオチだ。
俺は俺で、自分の誤解を解く事に専念しないとな。

「あのさ、二人とも」
「何？」
「はい」
「今晩、ちょっと電話したいんだけど」
「工藤さん、それは・・・」
「分かってます。落ち着いてからにするべきだって事ですよね。
　俺は落ち着いてます。落ち着いたんです。
　だから、きちんと説明したいんですよ」
「何で嘘ついたかって事を？」
「違う。俺は嘘なんかついてないって事を」
「・・・そうなんですか？」
「二人とも、俺とそこそこ付き合いがあるんだから分かるでしょ？
　俺、嘘をついて他人を陥れようとする人間に見える？
　そんな事が出来るような人間に見える？」
「まあ、そんなんじゃないよね、くどっちは」
「そうだろ？それにきちんとした証拠だって見せるよ。
　俺の潔白を証明してみせる」
「・・・分かりました。じゃあちゃんと話しましょう」
「うん、そうだね」
「本当は仕事の後に、みんなで話せれば良いんだけど・・・
　それだと色々と不都合があるからね。
　ちょっと面倒だけど、一人ずつ電話で話したいんだ」
「じゃあ、どうしよっか。順番決めようか」
「そうだね。華穂ちゃん、先が良い？」
「私はどっちでも構わないけど」
「それなら、11時に鈴木さんにかけるよ。12時に山口さんにかけます」
「分かった。じゃあ待ってる」
「私も分かりました」

よし、これで誤解は解ける筈だ。後は上手く説明しないとな。



だが・・・。
二人とも、電話には出なかった・・・。

もう1時を過ぎてるのに、かかっても来ない。
せめてメールでも送って来るかと思ったけどそれすら無い。

どう言う事だよ・・・。約束したじゃないか。

特に鈴木さん。ドタキャンは大嫌いじゃなかったのか。

約束を破らないようにするんじゃなかったのか・・・？



つづく



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