第八十六話・壊れていく未来

『もしもし？聞いてんの？』
「・・・え、ああ、ごめん」

頭が真っ白になって何も考えられなかった。
ほんの数秒だと思うけど、黙り込んでしまったみたいだ。

山口さんがガッティと付き合う事になったって・・・
どうしてそうなるんだ・・・？

「・・・ねえ、何でそんな話になっちゃったの？」
『何が？』
「山口さんとガッティが付き合うって事だよ」
『知らないよ。ガッティさんが言って来たんだから。
　私はガッティさんと仲良いし、優希子と付き合ってくれるんなら
　別にくどっちじゃなくても嬉しいし』

・・・そんな言い方はあんまりだろう。

しかし、それは以前俺が考えた事だ。

男が苦手な山口さんが誰かと付き合えるのであれば
それは俺でなくとも構わないと言う事。

言い方を変えれば、俺でなければいけない、って訳では無いんだ。

『とにかく、そう言う事だから』
「・・・ああ」

ヤバいな・・・。まだ頭がきちんと働いてくれない・・・。

しかも鈴木さんとも仲直り出来ないのか・・・。

『まあ仕事では一応会話とかするけど、もう友達として接したくない。
　出来ればパーティーも脱退して欲しい。ガッティさん入れるから』

・・・・・・。

何もかもが壊れて行く・・・。

俺が今まで積み重ねて来たモノが・・・、音を立てて崩れて行く・・・。

『じゃあね、今までどうもでした』
「・・・・・・」

プー、プー、プー

切られた。

相変わらず一方的だ。
そんな人だってのは知ってたけどこんな風にやられると悲しい。

・・・・・・。

山口さんにかけてみよう。



『もしもし』
「あ・・・、工藤ですけど」
『どうも・・・』
「鈴木さんに聞いたんですけど・・・
　ガッティと付き合う事になったそうじゃないですか」
『ああ・・・、はい』

否定しないのか。
出来れば鈴木さんが嘘を言っていて欲しかった。
最後の望みすら消えてしまった。

「何で・・・そんな事になったんですか？」
『まあ、いろいろありまして・・・』

いろいろ、て。

「と言うか・・・、俺への返事はどうしたんですか？」
『は？』
「いや・・・、俺は山口さんに告白したじゃないですか。
　別にそれを断るのも、他の人と付き合うのも自由ですけど
　せめて俺に返事を出してからにするのが筋ってもんじゃないですか？
　俺は返事をずーっと待ってたんですよ」
『ああ・・・、それは・・・。まあこれが返事って事で』
「・・・はあ」
『それと、ガッティさんが工藤さんに対して凄く怒ってて
　もう顔も見たくないって言ってるんで
　すいませんけど仲直りは出来ないんです』
「怒ってるって何でですか？」
『私達にいろいろ酷い事をしたからだって言ってましたよ』
「だからそれは・・・」
『私もガッティさんを信じたいですし』

・・・・・・。

何てとんでもない事を言うんだ・・・。
もう俺なんてどうでも良いって言うのがよく分かる口ぶりだ。

彼氏に対して過剰に入れ込む山口さんなら
告白しても返事を貰う前に他の人と付き合われる、なんて事をされれば
それがどれだけ悲しく、痛く、辛いモノなのか想像出来る筈だ。

想像が出来るなら、それを人にやってはいけない。

綺麗事のようだけど、それは人が『人間』として生きて行く上で
絶対に守るべき事なんじゃないのか。
告白云々の問題ではなく、人を傷つけるような事をしないって意味で。

こんな言い方はしたくないけど・・・
山口さんが困ってる時に色々と相談に乗ってあげたのは俺じゃないか。
いくらか男と接するようになれたのも、俺のおかげじゃないのか？

恩着せがましい事を言う気は無いけど、そんな俺に対して
せめて最低限の礼儀や筋くらいは通すべきなんじゃないのか？

恋人が出来た途端、手の平を返したように冷たくなって・・・。

もうガッティの言いなりか。
ガッティの事が最優先になるのか・・・。

「そうですか・・・。分かりました・・・」
『今までありがとうございました。それじゃあ』

プー、プー、プー

・・・切られた。



おかしい。何もかもがおかしい。

何でこうなった。俺が何をした。

これは夢なのか。それなら早く覚めてくれ。

こんな事は・・・、信じたくない・・・。

お願いだから・・・、夢であってくれ・・・。



つづく



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