第八十九話・何も見えない

気付いたら朝になっていた。

眠れたかどうか分からない。
多分眠れたんだろうけど夢は見られなかった。

俺は大概、夢は見るんだけどな。しかもカラーで。

・・・そう言えば、山口さんが夢に出て来た事もあったな。

もう付き合ってるって設定で、普通に『恋人同士』として接してて
起きた時、それが夢だった事が悔しかったもんだ。

そして、絶対にそれを現実に変えてやると燃えたんだったな・・・。

今更だけど、山口さんはどうして俺と付き合えなかったんだろう。
馬が合わなかったと言えばそれまでだけど・・・。

やっぱり・・・、まだつまんない人間だったのかな。

強くなれたかも知れないけど、それが『つまらなくなくなった』事になるかと言えば
それはまた別の話だ。
例えば話が面白いとか、趣味が合うとか、そう言ったモノとは違うんだから。

まあ憂樹に借りた本で多少の知識は身に着いたし
趣味の面では同じ『treasure』仲間だったんだし、問題があったとも思えないんだけど・・・。

・・・あれかな。『良い人』止まりだったって事かな。

相談には乗れたし、色々とアドバイスも出来たけど
それが恋愛感情に繋がるかと言えばそうとは言い切れない。

ただ頼りになる人、で終わってしまう事も充分あり得る訳だ。

もっと言えば、恋人が出来てしまえばそっちに頼れば良いんだから
俺みたいなタイプで無くても良いって訳だ。

あと考えられるのは・・・。

タイミングが悪かったって事かな・・・？

俺と鈴木さんが喧嘩をしていた。
当然、山口さんはどうして良いのか分からないで困っていただろう。

そこにガッティが優しく接して来たとすれば・・・。

それなりに馬が合っていたのかも知れない。
そこはイベントで話したり、その後の遊びに行った時や、『treasure』で話したりと
ガッティと接する何度も機会はあったんだから、気付いてた可能性は充分ある。

困っている所に、俺よりも馬が合うガッティに優しくされた・・・。

はは、辻褄が合っちゃうじゃないか・・・。
つまり俺は自分で墓穴を掘っちゃったって事になるのか？
自分のせいでこんな事になったって言うのか？

でもな・・・、鈴木さんと衝突する事になったのは
仕方ないって言うか・・・、当然だって言うか・・・。
憂樹も言ってたけど悪いのは絶対に向こうだと思うし・・・。

言いたい事も言えないんじゃ、本当の友達とは言えないと思う。
良い所も悪い所も受け止め合い、認め合い、許し合える関係こそが
本当の意味での『友達』ってもんじゃないのか？

鈴木さんの言ってる事は・・・、明らかに自分を中心に考え過ぎだ・・・。
確かに傷ついたかも知れないけど、それを言われた原因は自分じゃないか・・・。

ま、良いか・・・。今更こんな事を考えるのも不毛と言えば不毛だ。

もうどうにもならないんだから・・・。

もっと前向きにならないとな・・・。



とは言え・・・、これからどうしたら良いのかな。

憂樹に勧められた事が全部ダメになっちゃったから・・・
ある意味、亜矢子にフラれた後の頃に戻ったようなもんだ・・・。

前に進みたいけど・・・、前は見えない。

それどころか、何も見えないな・・・。



つづく



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～another story from yuki～vol.1「私情」

とりあえず・・・
まさとのバイト先の二人の事を調べる必要がある。

とは言え・・・、どこにいるかは分かるけど
名前に辿り着くのは難しい。

まさとに聞けばすぐに分かるんだけど・・・
出来れば、これ以上触れてあげないようにしたい。
尾行して調べる事も出来るけど、あんまり事を大きくしたくないし・・・。

・・・やっぱり一人はキツいな。ジュン達に頼んでみるか。



「・・・で？それを俺達に手伝って欲しいと？」
「そう。手が空いてる時で構わないから」
「あの・・・、ユキさん」
「ん？」
「その・・・」
「マコト、言いにくいなら俺が言ってやる」
「お願いします・・・」
「？」
「ユキ。ハッキリ言ってやるが、協力は出来ない」
「どうして？本業が忙しいの？」
「そう言う問題じゃない。って、そんな事も分からないのか？」
「え・・・？」
「ユキさん。どうしてその、まさとさんの為にそこまでするんですか？」
「どうしてって・・・」
「ユキ。俺達は仕事に私情を持ち込む事はタブーの筈だ。
　それはお前が、マコトをはじめ後輩に散々教えて来た事だろう。
　だが今のお前は、明らかに私情むき出しでやろうとしている」
「・・・それは」
「マコトでも、そこに気付いたから了解はしなかったんだ。
　お前ほどの奴が何でこんな初歩的な事をやってるんだよ」
「・・・いろいろあるのよ、私には」
「別に、お前が個人的にやるって言うなら止めはしないさ。
　さすがにそんなとこまで口を出す程、野暮じゃないからな。
　でも俺やマコトにまで協力して欲しいってのは受け入れられない。
　前回の（佐藤亜矢子の件）は大した事じゃなかったから大目に見たけど
　今回のは私情が絡み過ぎている。さすがに黙って協力は出来ない」
「・・・分かった。ごめん、確かにちょっと私情に流されてちゃってた」
「まさとさんが気の毒なのは分かりますけど・・・」
「大丈夫。一人で何とかするから」
「・・・ま、頑張れ」
「頑張ります」

・・・ジュンの言う通りだ。ちょっと自分を見失ってた。

でもおかげで冷静になれた。
時間はかかるけど、一人で出来ない事も無いだろうからやるしか無いか・・・。



さて・・・、どうしたものか。

とりあえず、まさとの近辺を色々と調べてみるか。何が変わったのか。

まずバイトを辞めた。これは本人が言っていた事だ。
後で裏は取るけど、まあ嘘ではないだろう。まさとの性格を考えれば当然だ。

『treasure』はどうなったのかな？

・・・ん？パーティーにいない！！
フィン、マッキー、・・・ガッティ！？

おかしいな。『レックス』がいなくなったのは知ってたけど
まさとの『リュウ』までが、どうしていなくなってるんだろう？

・・・ユーザー情報が出ない！退会してる！！
（※『treasure』にはユーザー検索機能があり、HNさえ分かればその人の情報が見られる。
　26話で憂樹がまさとを助けられたのはこれを使ってマークしていた為であり
　83話でまさとがガッティを調べていたのもこの機能を使った為）

・・・バイトを辞めるのは分かるけど、どうして『treasure』まで辞めたんだろう？
別に続ける事に問題は無いと思うんだけど。

何もかもが嫌になって、全てを辞めた。
もう『treasure』さえも続けて行く気力が無くなってしまった・・・。

こう考えれば一応、筋は通るけど・・・何か引っ掛かる。

そもそも急にパーティーを脱退された筈なのに何故すぐにメンバーの補充が出来る？

最初は四人だったのが三人になったけど、また四人に戻ったので辞められた、とか・・・？
何か話が出来過ぎているような・・・。

・・・待てよ？まさとは、嫌がらせを受けたと言っていた。

もし『バイトの同僚＝パーティーのメンバー』だとしたらどうだろう？
二人は同一人物だから、バイトも辞めた事と同じ理由で『treasure』も辞めた。
そしてこの『ガッティ』が嫌がらせをしていた犯人だとすれば・・・。

・・・しかも告白をした子は、嫌がらせをして来た奴と付き合う事にしたと言っていた。

フィンかマッキーか、どちらかはまだ分からないけど
このどちらかが告白をした子で、それがガッティと付き合う事になった・・・。

当然、まさとはそんなパーティーの中にいられる訳は無い。
それどころか悪者扱いされてしまっているんだから、ある意味追放されたと考える事も出来る。

こう考えれば、まさとが『treasure』を辞めた理由も、この二人がすぐにメンバー補充が出来た理由も
全てに説明がつく・・・！！



・・・よし！まずはこの二つの関連性を調べてみるか。



つづく