第六十九話・備えあれば憂いなし

「ねえ、憂樹。前にディズニーランドとかに詳しいって言ってたよね」
「まあねん。年パス持ってた時期もあったし」
「一番オススメなレストランって何処？」
「・・・オススメ？」

何か不審な顔をされた・・・。

「クィーンオブハートのバンケットホールかな」
「・・・それどこにあるの？」
「ファンタジーランドだよ。不思議の国のアリスにハートの女王っていたでしょ。
　それのお城がテーマになってるの。
　私は、そこが一番『ディズニーのレストラン』って感じがして好きだな」
「なるほどね・・・」
「シーは良いの？」
「うん、とりあえずランドの方で」
「デート頑張ってね」
「ありがと。・・・って、ええ！？」

まだ何も言ってないのに・・・。

「あら、当ってたの？」
「え・・・。あ、まあ・・・ね」

カマをかけただけだったのか。
簡単に引っ掛かった自分が情けない・・・。

「まあ、その・・・、ディズニーランドに行きたい、って言われてね」
「行く事になったの？」
「いや、決定ではないんだ」
「え？じゃあ何？」
「時間があったら行こうと言う簡単な約束だね。
　言い出したのは向こうだし、ほぼ決定なんだけど・・・」
「付き合う事になったら、って事でしかない」
「・・・はい」
「その割には用意周到だね。もう下準備？」
「だって早い方が良いだろ？」
「そりゃそうだけどね。気が早いとも言うよ」
「まあね。あはは・・・」

そうだよな。何でこんなに急いでるんだろう・・・。
さっき言われたばっかりなのに・・・。

「でもさ、デートだって気付いてたのに何で教えてくれたの？」
「別に、意地悪で教えない、とかはしないよ。
　その子の事で相談とかしてくるようなら『自分で解決しなさい』って言うけど
　そう言う情報収集の意味で力を貸して欲しいって事なら拒否はしません。
　むしろ喜んで力を貸します。それはこないだも言ったでしょ」
「そっか・・・。ありがとう」
「まあ、内緒で相談して来たからちょっと不審に思ってしまいましたが」
「ごめん・・・」

さっきの顔はそれか・・・。

「これ貸してあげるから、参考にすると良いよ」
「・・・これって」

ディズニーランドのガイドブックじゃないか・・・。
こんなのまで持ってるのか。

「前にも言ったけど、知識は武器だよ。
　あらかじめ情報を仕入れておくと色々と役立つからね。
　どんなルートで見るか、とかも研究出来るし。
　本当は直接行って下調べするのがベストなんだけどね。
　百聞は一見にしかずってことわざ知ってるでしょ」
「・・・知ってるけど」

下調べの為だけに行くのもキツいなあ・・・。

でも・・・。

「今って入場券は無くなったんだよね。
　つまり入るだけでもパスポートを買わなきゃいけない訳です」
「・・・それでも行くかも知れない」
「マジで？」
「マジで」
「熱い人だねえ、まさとって」
「そう？」
「ま、止めたりはしないので。やりたいようにやるのも良いんじゃない？」
「そうする。出来る事は何でもしておくよ」

俺は、憂樹が出したガイドブックを手に取った。

「これ、借りるね」
「下調べもするし、それも使うの？」
「うん。『知識は武器』だろ？仕入れられる情報は片っ端から仕入れるよ」
「あら、感心な態度だこと」
「ははは。じゃあ、ありがとう。勉強して来ます」

俺は、自分の部屋に戻る事にした。

「まさと」
「え？」

ドアを開けようとした時、声をかけられた。

「ワールドバザールに『グランドエンポーリアム』ってお店があるの。
　そこはパークで一番大きいショップでメジャーなお土産は大概置いてるから
　買い物する時、迷ったらそこに行くと良いよ」
「・・・ありがとう。覚えておく」



・・・前より知恵が身に付いて、徹底する癖も付いたからなのか
こう言う時に色々と手の込んだ事をしてしまう性格になってしまった。

山口さんは俺がここまでしてる事を知ったら何て言うだろうな。
引かれたりして・・・。

ま、言う気は無いけど。
黙って情報を集めておいて、本番では自慢しない程度に引っ張って行ければベストだと思う。

自分で言うのも変だけど。頑張るなあ俺も。

言葉を変えると・・・、単に『必死』なだけなんだけどね・・・。



つづく



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