第二十一話・きっかけ

「ねえ、まさと。私の事嫌いになった？」
「え、何で？」
「つまんないでしょ、こんな女じゃ」
「そんな事無いよ」
「無理しなくて良いよ。
　さっき友達がいないって言ったけど、こんな性格だから
　みんな離れて行っちゃうんだよね。
　だから嫌いになったって、至って普通だろうから」
「だって俺は・・・、憂樹の事、尊敬してるし」
「そうなの？」
「・・・そうだよ」
「あら嬉しい」

本当の事だ。
尊敬してるからこそ、俺は憂樹について行ってるんだし
教えを守っているんだ。

でもさすがに・・・、口に出して言うのは恥ずかしいな・・・。

「じゃあ、もう一つアドバイスをあげましょう」
「え、ホント？」

・・・憂樹ってお世辞に弱いのかも知れないな。
覚えておこう。

「今、自分から動かなきゃいけないって話をしたでしょ」
「うん」
「でもね。その動くにしても、きっかけが違えば結果も違うんだよ」
「・・・どう言う意味？」
「じゃあ逆に聞くけど。自分から動くとしても、何の為に動くの？」
「・・・出会いを探す為に」
「0点」
「え！！」

0点と来たか。最悪な答えって事じゃないか。

「ガツガツし過ぎ。そんなあからさまに出会い求めてます、なんて
　周りが見たらドン引きするよ。
　そんなんじゃ、出会いがあったとしても印象が最悪じゃない」
「う・・・」

確かにそうだ。完全にモテナイ男の王道パターンを行ってる気がする。

「例えばね、自分の為に何か新しい事を始めて動くの。
　スポーツとか、楽器とか、語学とか。
　そうすれば絶対そこに他人、つまり異性がいるでしょ」
「あ・・・」
「出会い云々は二の次ってくらいに考えた方が良いんだよ。
　いろんな人と触れ合える事をすれば、出会いなんて自然について来るよ」

目からうろこが落ちるようだ。
どうして憂樹はこんな事が言えるんだ・・・。

「まさとは修行中みたいなものだからね。何か始める良い機会じゃない。
　結果的に強くなる鍛錬に繋がるよ」
「ありがとう。・・・何か感動しちゃった」
「ホント、感動屋さんだね」

きっかけが違えば結果も違って来る、か・・・。

「さて、私はそろそろ仕事に戻ります」
「え、終わりじゃなかったの？」
「当たり前でしょ。昼休み中だったんだよ。
　真琴が分からない事があるって言うから教えてたの」
「そうだったんだ。ごめん、休み時間潰しちゃって」
「別に構わないよ。それよりまさとは学校は？」
「ああ、もう終わったから」
「羨ましいわねえ」
「いや・・・」

俺と憂樹は、店を出てそのまま別れた。

そこで俺は、大事な事を思い出した。

亜矢子の事だった。

そうだ、俺が亜矢子に出会ったのは同じ講義を受けていたからで
入ったサークルも同じだったからだ。
当時は亜矢子がいるからとか、そんな事は全く考えていなかった。
入ったサークルに亜矢子がいた、と言うだけだったんだ。

そこで二年くらい一緒にサークル活動をして、どんどん親しくなって行き
気付けば恋愛感情を持っていた・・・。

これは正に、さっき憂樹が言っていた事そのものだ。

新しい事を始め、他人と触れ合う事をすれば、出会いは自然についてくる・・・。

なるほどな・・・。俺は憂樹が言った事を既に体験済みだったんじゃないか。

・・・待てよ、それなら憂樹もこの事に気付いてる筈だ。
アイツの事だ。気付かない筈は無いだろう。
それなら何でこの話を出さなかったんだろう・・・？

・・・！！

そうか・・・、俺に気を遣ってくれたんだ。

最初の質問の時に亜矢子の名前を出したけど、それ以降は全く出していない。
よく考えてみれば、所々で亜矢子の時の例を出せそうな話だったのに、だ。

その理由は・・・、一つしか無い。
おそらく、俺の心の傷に触れると考えたんだろう。その為に言葉を選んだ。
さすがに最初は出さない訳にいかなかったのかな。亜矢子の事と考えたくもなるし。

・・・考え過ぎかな？

いや、相手は憂樹だ。俺が考え過ぎと思う事を普通にやるのが憂樹だからな。



何にせよ、憂樹がここまでアドバイスをくれたんだ。

頑張らなきゃな。

・・・ちょっと動機が不純だけど。



つづく



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