第五十一話・仰天

山口さんに誘われて、俺はファミレスに来た。

まさか、二人だけで食事するとは夢にも思わなかったな・・・。

ま、とりあえず・・・。

「あの、山口さん」
「・・・はい」
「そろそろ教えてくれないですか？
　何で誘ってくれたんですか？」

無粋かも知れないけど、誘われた時に理由を聞いた。
だけど山口さんは答えてくれなかった。

とりあえず行ってくれるなら答える、と言われたんだ。

そこまで言われたら、行くしかないだろう。
いや、別に理由が聞きたいからじゃない。
山口さんに誘われて悪い気はしなかった。
むしろ嬉しくなったくらいだ。

それに加え、何か交換条件のようなモノを出されたから
ここまで要素が重なれば、断る理由なんか無い。
そう思ったから行く事にしたんだ。

「実は・・・」
「はい」

山口さんは何か言い辛そうな顔をしてる。

何か裏があったのか・・・？

「相談に乗って欲しいんです」
「え！？相談！？」

・・・ビックリした。
そう来たか。まさか相談とは。

「何で俺なんかを？鈴木さんとかじゃダメなんですか？」
「華穂ちゃんには相談出来ない事なんです」

・・・何なんだろう。
鈴木さんに出来て俺に出来ない、なら分かるけど
逆だなんて、よっぽどの事じゃないのか？

「工藤さんって優しくて頭も良いですし、悪い所を正してくれるんで
　相談に乗って欲しいなって」
「まあ、俺で良ければ聞きますよ」

・・・憂樹に相談に乗って貰う事は何度もあるけど
自分が乗る側に回るとはな。

「言って良いですか・・・？」
「どうぞ」

何だ。何を言い出す気だ。

「私、彼氏がいるんです」
「え！！！」

・・・今度はさっきの十倍以上はビックリした。

「彼氏が・・・？」
「はい」

・・・？？？

あれ？山口さんは男が苦手なんじゃなかったのか？？

「これ、言っちゃまずいかも知れないですけど・・・
　山口さんって、男が苦手なんじゃなかったでしたっけ」
「・・・どうして知ってるんですか？」
「鈴木さんに聞いたんですよ」
「華穂ちゃんが・・・」
「いや、俺が山口さんと話しててそう思ったのを鈴木さんに聞いたんです。
　そうしたら鈴木さんは認めた、って事なんで
　鈴木さんから話したって意味じゃないですよ」
「あ、そうだったんですか」
「まあ、それはそれとして・・・
　男が苦手なのに、どうして彼氏がいるんですか？」
「・・・長くなりますけど良いですか？」
「どうぞ」

山口さんは水を飲むと、少しずつ喋り始めた。

「私・・・小二の時に、一年間ずっといじめられてたんです。
　三年からは転校したんでいじめられなくなったんですけど」
「どうしていじめられてたんですか・・・？」
「分かんないです・・・、顔が気に入らなかったんですかね・・・」

・・・何か聞いちゃいけない事を聞いてしまったような。

「でも、三年生になってからはいじめられなくなったんですよね？」
「その時されたいじめが原因で・・・、誰とも話さなかったんで
　相手にすらされなかったんです。それがずっと続きました」

・・・重い。重過ぎる。

「正直、他人って言うのが全然信じられなくなって・・・
　中学は、勉強して私立の女子中に行ったんですよ」
「へえ・・・」

それは相当な事だ。
よっぽどの事が無い限り、そこまではしないだろう。
それをやったと言う事は『よっぽどの事』だった訳だ。

「そのおかげで、女の子とは喋れるようになったんですけど
　やっぱり男の人はどうしても苦手で・・・。
　でも少しはマシになった方なんですよ」
「分かりますよ。そうじゃなきゃ俺とは話す事すら出来ないでしょう」
「それで、高校も女子高に行ったんですけど・・・」

そこまでしてたのか。
これはかなりの重症だな。

「高校の時にバイトしてたお店に凄く優しい先輩がいたんです。
　それが・・・」
「今の彼氏。ですね？」
「そうです」

・・・よく分かったな、俺。

「その彼は、今で言えば工藤さんみたいに凄く優しくて頭もキレて
　良い人だったんで・・・、何年振りかに男の人を信用出来たんですよ」
「なるほど。良い話じゃないですか」
「ただ・・・、相談って言うのはその彼氏の事なんです・・・」
「え？」



何だ。せっかく良い話だったのにその彼氏の事で相談？

・・・嫌な予感がするなあ。



つづく



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