第五十六話・一大決心

「じゃあね、くどっち。また明日バイトで」
「へーい」

俺は鈴木さんと別れた。

・・・疲れた。
山口さんに気を遣ってる時でもこんなにはならないのに。
隠し事をするのがこんなに疲れるとは思わなかったな。

しかし・・・鈴木さんが俺と山口さんをくっつけたがっていたとは。

憂樹は反対してたな。俺じゃ振り回されるって。

何でもかんでも憂樹の言いなりになる気は無いけど・・・
確かに俺じゃ山口さんとは付き合えないんじゃないかと思って来た。
断言された時は「えっ！？」と思ったけど
冷静になって、鈴木さんにああ言われて一応考えてみると
そんな気がして来たんだよな。

と言っても俺は・・・
好きになっちゃうと理屈とか関係無くのめり込むタイプなんだ。
そう、山口さんと同じだったりする。

それに俺は彼女とは
「愛したいし愛されたい」って言うのを望んでるから
山口さんならひたすら一途になってくれそうだし
ある意味では理想的な人ではある。

だから好きになっちゃえば・・・関係無いんだろうな。

でも、これはかなり現実味が無い話だ。

まず『山口さんが今の彼氏と別れる』と言う仮定があって
更にその上での『俺と付き合ったら』と言う仮定の話だから
相当、都合良く考えた結果での意見なんだ。

現実問題、今そんな事を考える必要なんて無い。
鈴木さんだって実は山口さんに彼氏がいると分かれば喜ぶだろう。
別に俺である必要なんて無いんだ。

山口さんは未だに話したがってないみたいだけど。
別に大丈夫だと思うのにな。



そんな事を考えながら、俺は電車に乗った。

ピピ

ん？メールだ。

・・・あれ？新着メールが二件になってる。
しかも二件とも山口さんからじゃないか。

一件目は・・・、ちょうど鈴木さんと話してる時に来てるな。
何気に盛り上がって話してたからな。気付かなかった。

こう言う場合・・・、一件目から読むべきだろうな。
二件目は、一件目の続きの可能性がある。
そうだったら二件目を先に読んじゃうと話が繋がらないから。

えーっと。

『これから彼氏に会います。
　昨日、工藤さんに言われたので別れる事にしました。
　それを伝えようと思ってます』

・・・・・・。

・・・ええっ！？

いつの間にそんな決心してたんだ。知らなかった。
絶対にまだ別れないと思ってたのに。
まあ結果的には良かったんだろうけどさ。

って事は二件目は、それの報告かな。

えーと。

『さっきメールで伝えた事で話したい事があるんですけど
　今、電話って出来ますか？』

・・・電話！？直接話したいって事か？

それじゃあ・・・。

『今、電車に乗ってるんで少しだけ待って下さい。
　電話が出来るようになったらこっちからかけますよ』と。

これで良し。送信。

ちょうど駅に着いた。

ピピ

お、もう返事が来た。

『はい、待ってます』

・・・何か嫌な予感がする。
必死さが伝わってくるとでも言うか。

とりあえずかけてみるか。
俺は駅を出ると静かな所に行き電話をかけた。

『もしもし』
「あ、工藤です。こんばんわ」
『こんばんわ・・・』

元気が無い声だ・・・。

まさか・・・。

「えーっと、何か話したい事があるらしいですね？」
『はい』
「彼氏に別れるって言うつもりだったそうですけど・・・
　どうなったんですか？」
『実は・・・やっぱり言えなかったんです・・・』



・・・やっぱりな。

そんなところだろうと思いましたよ、山口さん・・・。



つづく



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