第五十七話・強くありたいから

「・・・・・・」

電話の向こうで山口さんが落ち込んでるのが分かる。

・・・参ったな。
何て言ってあげれば良いのやら。

『・・・工藤さん』
「はい？」
『私、今日凄く勇気を出して彼に会いに行ったんです』
「・・・そうでしょうね。別れ話を出すなんて
　そりゃあ相当な勇気が要るでしょう」
『でも彼の顔を見たら、やっぱり別れたくなくなっちゃって
　さよならなんか出来なかったんです・・・』
「まあ仕方無いですよ。それほどその彼氏が好きなんでしょう？」
『・・・はい』
「じゃあ、良いんじゃないですかね。今はそれで。
　いつか言える様になった時でも良いですし
　昨日は別れた方が良いとか言っちゃいましたけど
　そのまま続けるのもそれはそれで良いんじゃないですか？」
『そうですか・・・？』
「俺とか周りの意見って言うのは、あくまで参考ですから
　それを山口さんがどう受け止めてどう言う答えを出すのか。
　本当に大事なのはそこだと思いますよ。
　俺の意見とかにただ従うのが大事って訳じゃありません」
『ありがとうございます・・・』

良かった。何とか慰められたっぽい。

しかし、我ながらこんな事が言えるとは。
自分で言っておいてちょっと驚きだ。

「じゃあ、明日バイトで会いましょう」
『はい。ありがとうございました』

・・・疲れた。また疲れがどっと来た感じだ。
鈴木さんに気を遣い、山口さんに気を遣いで
神経使いまくりだったからな。

・・・早く帰ろう。



「ただいまー」
「おかえり、まさと」
「ただいまっす」
「ご飯食べたの？」
「食べて来た」
「そう。今日ってヅケ丼だったのにね」
「何！！」

俺の大好物じゃないか・・・。
何か悲しくなって来た。

「あはは、ガッカリしてるでしょ」
「・・・いや別に」
「大丈夫だよ。まさとの分もちゃんとあるから」
「え」
「まあ明日にでも食べれば大丈夫でしょ」
「ありがと・・・」
「いえいえ」

・・・・・・。

「？・・・どうしたの？」
「え？あ、いや」

つい憂樹の顔をじっと見てしまった。

「あのさ、憂樹」
「ん？」
「憂樹って、人に気を遣ったりして疲れない？」
「全然」
「そうなんだ・・・」

凄いな。

「疲れるのは、考えてやるからだよ」
「え？」
「慣れれば、考えなくても人に何か出来るの。
　考える前に言葉が出たり行動に移せるとでも言うのかな。
　そうなれれば疲れたりしないよ」
「へえ・・・」

相変わらず、憂樹は何もかもが凄いな。
普通の質問一つでも感動する答えが返って来る。



そうだ。

俺は・・・、こう言う人間になりたいんだよな。

だからさっき山口さんにもあんな事が言えたんだろう。
考える前に、言葉が出て来たんだろう。
強くあろうとしていたから無意識に出来たと言うか。

まあ、さすがに緊張したせいで何か疲れちゃったけど。



「憂樹！」
「え！？どうしたの急に？」
「ありがとう」
「・・・どういたしまして」



つづく



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