第五十九話・あなただから言える事

俺と鈴木さんは仕事の後カラオケに行った。
駅前にあるから、終わればすぐに電車に乗れるな。

今、22時12分か・・・。

「えーっと、終電が0時36分だから約二時間唄えるね」
「少ないなあ」
「そうかい・・・？」

俺は充分な時間だと思うけどな。
大勢ならともかく、二人で二時間だぞ。

「さあ唄おう！」
「えと、何唄おうかな・・・」
「先に入れるよー」
「え！？」

鈴木さんは、さっさと入れてしまった。
早い。来る前から何を唄うか決めてたかのようだ。

・・・上手いな。

「くどっち、決まった？」
「いや、まだ」
「じゃあまたお先に」
「何！？」

・・・いつの間に決めてたんだ。

俺も、やっと一曲決まって入れた。

「お、上手いじゃん」
「そう？」

俺はあんまりカラオケには行かないんだよな。
誘われたら行く程度だから。
だから正直、自信とか全く無い。

でも鈴木さんは・・・。

明らかに唄い慣れている。
振り付けまでつけるくらいだ。ノリノリだなおい。

「あれ？くどっち、もう入れないの？」
「いや、俺はそんなに持ち歌無いんだよ！」

鈴木さんは一体何曲入れる気だ。
俺が一曲入れる間に二曲か三曲入れてる。
まあ、俺の選んでる時間が長いからだし文句は無いけど。

しかし鈴木さんは歌の幅が広いな・・・。
いろんなジャンルの歌を唄ってる。たまに男の曲も唄うから凄い。



「いやー、飛ばし過ぎたかな」
「そりゃそうだろうねえ・・・」

気付けば一時間も経っていた。

その一時間、鈴木さんは唄いまくっていて
おそらく俺の二倍以上は唄ったと思う。

「ちょっと休憩しようよ」
「そうだね、ジュースでも頼もうか。くどっちは何飲む？」
「オレンジジュースで」
「じゃあ私もそれにしよ」

鈴木さんはジュースを頼むと、唄うのを止めた。

「ねえ、くどっち」
「何？」
「くどっちは、私の事ってどう思ってる？」
「・・・はい？」

今度は鈴木さんの事かい。

「うーん、明るい人だなって思ってるけど？」
「それだけ？」
「・・・それだけじゃ不満かい？」

何だ。何か微妙な空気になって来たぞ。

そうこうしてたらジュースが来た。
とりあえずジュースを飲む事にした。

「くどっちって良い人だよね。優希子に気を遣ってあげたり
　私に付き合ってくれたりさ」
「そう？」
「・・・ちょっとカミングアウトして良いかな？」
「カミングアウト！？・・・別に構わないけど」

そう答えるしか無い。
まあ、別に嫌って訳でも無いし。

「これ、見てくれる？」
「・・・！！」

鈴木さんは、腕まくりをして手首を見せた。

「何だか分かる？」
「・・・リストカットの痕じゃないの？」
「そう」

・・・やっぱりな。さっき見たけど当たってたか。

でも確か、やった理由によっては意味合いが全然違ってくるんだよな。

「どう思う？引いた？」
「・・・別に引いてないよ。ビックリはしたけど」
「へえ。優しいね、くどっちは」
「優しい？」
「これ見せたら、気持ち悪がる人多いんだよね」
「・・・そうなんだ」

普通の人ならそうなるかもな。

「確かに気持ち悪いからね。
　自分でそれは分かってるから構わないんだけど」
「・・・・・・」
「くどっちは、リスカの事とかどれくらい知ってる？」
「・・・ごめん、正直ほとんど知らない」
「知ってるとこまででも良いよ」
「自殺未遂のケースと、自傷行為のケースとがあるのは知ってるけど」
「私はどっちだと思う？」
「え」

難しい質問して来るなあ・・・。
しかも、どっちにしても重い話になりそうだ。

「自傷行為の方かな」
「何で？」
「消去法だよ。
　自殺をしようして手首を切っても死ぬ事は難しいって聞いた事があるから
　そっちじゃないと思っただけ」
「当たり。よく知ってるね」
「こないだ読んだ本に載っててね・・・」

もちろん、憂樹から借りたやつにだ。
意外な役に立ったな・・・。

「私ね、誰にでもこれを話してる訳じゃないんだよ」
「どう言う意味？」
「本当に信頼出来る人じゃないと話してないんだ」
「・・・つまり、俺は信用出来ると？」
「うん」
「ありがとう・・・」
「だからね、くどっちだからこそ打ち明けたいんだ。聞いてくれる？」
「俺なんかで良いなら」



・・・俺だからこそ、か。

そう言われたら断る訳にはいかないじゃないか。

別に嫌じゃない。俺が必要とされてるなら、引き受けてやるさ。



つづく


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