第十三話・黒い憂樹

「まさと？ご飯だよ」
「・・・・・・」
「まーさとー」

カチャ

憂樹が部屋のドアを開けたらしい。

「あれ？開いてるじゃん。まさと？寝てるの？」

返事をしたくなかった。

「まさと？」
「・・・・・・」
「・・・寝てるのか」

バタン

ドアを閉める音だ。

俺はゆっくりと起きた。
食欲なんて無い。生きている心地すらしていなかった。

「やっぱり起きてたんだ」

・・・！！！

ドアの前に憂樹がいた。
・・・そうか、ドアを閉めるふりをしただけだったんだ。

「どうしたの？何やってんの？」
「いや・・・、その・・・」

何て言って良いのか分からない。

「みんなから嫌われた事を気にしてるの？」
「・・・うん」
「さっきも言ったでしょ。世の中そんなもんだって。
　それに、まさとが抜け駆けしたってのも事実なんだよ」
「そうだけどさ！！」

俺は大声を出した。

また・・・泣いちゃってた。

「だからって・・・、こんなのあんまりじゃんか！
　こんな・・・、何もかも失わなきゃいけないのか！？
　失恋するってこう言う事なのか？俺が何したってんだ！
　好きになって告白して何が悪いんだよ！
　それでフラれた所に追い討ちかけて楽しいのかよアイツら！！」

やり場の無い怒りが・・・、こみ上げて来てた。

その怒りが悔しさを、そして悲しみを呼んでいた。

「こんな思いするくらいなら・・・、いっそ死んだ方が・・・」

次の瞬間、憂樹に胸倉を掴まれた。

「・・・もう一度言ってみなさい」
「え？」
「死んだ方が何？死んだ方がマシだって言いたいの！？
　ふざけた事言うんじゃないわよ！！」
「あ・・・」

憂樹は完全に怒っていた。その迫力に俺は圧倒された。

「私に強く生きたいって言ったのは誰？アンタでしょ！？
　強くなるには、その程度の壁なんか何個も越えなきゃいけないのよ！
　アンタ世の中ナメてるの？そんな甘ったれで強くなれる訳無いじゃない！」

何も・・・、言い返せない・・・。

「二度と私の前で『死にたい』とか、そんな事言わない事。分かった？」
「・・・・・・」
「『はい』は？」
「はい・・・」
「『ごめんなさい』は？」
「ごめんなさい・・・」

怖い。

本気で怒った憂樹が・・・、こんなに怖いなんて。

「まあ今日は許してあげる。まさとの気持ちも分かるしね。
　・・・ん？」

憂樹は机に置いておいた俺の携帯を取った。

「ちょっと見るよ」
「え？ああ・・・」

憂樹はしばらく携帯をいじった後、何故かニヤリと笑った。
そして元の位置に戻す。

「あ、ご飯どうする？」
「・・・いらない」
「そう。じゃあおばさんに言っといてあげる」
「ごめん」
「ん」

憂樹はそのまま出て行った。

本気で怒られたのなんて・・・、何年振りだろう。

俺は・・・、本当にダメな奴だな。



「ジュン？ごめん、またちょっと調べて欲しい事があるんだ」
『おう！今度は何だ？』
「東秀大学の、女の子の事」
『名前は？』
「さとうあやこ。字とか情報は今メールで送るね」
『どのくらいまで調べる？』
「出来る限り、で」
『オッケー』

・・・やり方が気に入らない。

確かにフッた相手と縁を切るのは珍しくない。

でもだからって最悪の形で・・・
もっとも相手を傷付けるやり方が許されて良い訳が無い！

私の考えが当たっていれば・・・
少なくとも周りに踊らされているのは間違い無い。

でもそれを気付けない事も無かった筈だ。そこを突けば・・・。

人を傷付けるって事がどう言う事か・・・、教えてやる。

みんなまとめて相手をしてやる。

面白い事になりそうですね。佐藤亜矢子さん。

あ、ご飯食べなきゃ。



つづく



↓宜しければ押してやって下さい