第百五十九話・憂樹の変化

とりあえず俺は、家に帰る事にした。
藤井さんの連絡先は知らないし、このままいても無意味でしかない。



「ただいま」
「あ、おかえりー」

帰ると、憂樹がいた。
・・・ちょっと話してみるか。

「ねえ憂樹」
「ん？」
「ちょっと話があるんだけどさ・・・、チェスでもしない？」
「良いよん。じゃあやりましょ」



と言う訳で、チェスをやりながら話す事になった。
今日は憂樹の部屋でだ。



「で？話って何？」
「仙台に行く前に・・・友達の兄貴が借金してるって話をしたじゃん」
「あー、あったね」
「今日聞いたら解決したんだって」
「へー、早いね」
「やっぱり闇金に借りてたらしいよ」
「そうなんだ。じゃあ返済義務は無いから払わなくて良い、とかなったのかな」
「それでさ・・・」
「はい」
「実はその友達って、女の子でね。その事を彼氏に相談したらしいんだよ」
「まさとより先にって事？」
「うん」
「なるほどね、まあ当然よね。友達より先に恋人に相談する。
　そんなの普通の人間なら当然、自然の行動だろうから」
「で、その結果・・・、彼氏との仲が悪くなっちゃったんだって」
「何で？」
「身内が借金をしてるような子は嫌だ・・・とかみたいだよ」
「まあ、ワガママだこと。何様なのかしらね」
「それで・・・、俺達が仙台に行ってる間に別れる事が決まっちゃったらしくって」
「そうなんだ。かわいそうに」
「・・・・・・」

・・・あれ？

「・・・？どうしたの？続きは？」
「え、ああ、ごめん」

何だ、今の反応は・・・。いつもの憂樹と違うぞ・・・。
ここで「かわいそうに」なんて言うとは思わなかった。



「それを聞いたのがさっきでさ・・・。ファミレスで話を聞いてたんだよ」
「どうしたら良いんですか、って聞かれたの？」
「いや、そうじゃない。もう諦めるしかないからそこは良いって。
　ただ話を聞いて欲しかったらしいんだ」
「あー、なるほどね。・・・随分と信頼されてるんだね」
「え？ああ、年下だからね。
　その辺の事情を知ってるのは多分俺だけだからってのもあるだろうし」
「それで？私に何を聞きたいの？」
「いや・・・。その子、俺が仙台に行ってる間に
　俺に相談したいと思ったらしいけど出来なかったんだよね」
「その理由は？」
「・・・連絡先を教えてなかったから」
「ドジねー」
「で・・・、もしそこで連絡先を教えてたら・・・。相談されてたら・・・
　俺は何て答えれば良かったのかな」
「その子、友達には聞かなかったの？」
「聞いたらしいけど、諦めろとか、ただ謝れとか
　具体的にどうしたら良いかは教えてくれなかったんだって」
「へー・・・。ま、そうだろうね。そこまで面倒な事になっちゃえば」
「憂樹ならその場合、どうしてた？やっぱり諦めるしか無いって言う？」
「・・・そんなの、必死に謝るしか無いじゃない」
「え」
「それはやってみたけど、ダメだった。だから他の方法を教えて下さい。
　そんな風に言ってたんじゃないの？」
「まあ・・・、それに近いね」
「どうにかしたいなら、下手に小細工するより『真剣に』謝るしか無いんだよ。
　誠心誠意、自分の全てを懸けてね。
　そうやって本心からの言葉で言えば心は動くもんだよ。
　それでもダメって言うなら・・・、それはかわいそうだけど諦めるしか無いよ。
　そう言うのが許せない人なんだから、そこは仕方ないと諦める。
　それ以外には・・・、無いと思うよ」
「真剣に謝って・・・、許して貰えるか、諦める事になるか。
　そのどっちかしか無いと」
「そーゆー事です」
「・・・なるほどね」



・・・やっぱりおかしい。

何か、憂樹がいつもと違う。



いつもの憂樹なら
「そんな身勝手な男とは別れて正解。嫌われて良かった、くらいに思うべきだよ」
「その子はそんな男を好きになった自分の眼力の無さを悔やむべき」
なんて言いそうなのに・・・。

今日は親身になって考えてあげてるって言うか・・・。
「かわいそう」って言ったり・・・。

何だろう。失礼な言い方だけど、優しくなってるような・・・。



どうしたんだろう、憂樹は・・・。

何か・・・、またドキドキして来た・・・。



つづく



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