第百六十一話・謎の挑発

とりあえず今日もバイトなんだが・・・。
藤井さんはちゃんと来ていた。

「藤井さん」
「あ、おはようございます」
「昨日の事なんだけど・・・」
「ああ・・・、はい。
　すいませんでした。私、あのまま帰っちゃったんです」
「結局どうなったの？」
「彼氏・・・って、もう彼氏じゃないですね。
　貴司って言うんですけど、バイクで来てたみたいで
　バイクに乗って行っちゃったんですよ。
　追い掛けたんですけど・・・、待ってくれなくて。
　私も諦めて帰ったんです」
「そうだったんだ」

いつも通り明るく、とは言えないけど
割とハッキリ喋ってる。それほど落ち込んではいないのかな・・・？

・・・いや、それは無いな。
あんなに一途に想ってたんだし、無理矢理に元気を出してるんだろう。

「もう・・・、しょうがないんで諦める事にしました。
　残念ですけど・・・仕方ないですよね」
「まあ・・・、そこはね」

ここではそれしか言えない。
下手に慰めるのは逆効果でしか無いし。



「あ、そうだ。ちょっと藤井さんに聞きたいんだけど」
「何ですか？」
「その・・・、貴司君だっけ。
　彼は、ここで藤井さんがバイトをしてるって知ってるの？」

昨日、憂樹と話した件でちょっと気になってたから聞いてみた。

「ああ、知ってますよ」
「あ、やっぱそうか」
「て言うか、ここに来た事もありますし」
「え！？」
「私に黙って、いきなりお客さんとして来たんですよ。
　『ちょっと驚かせようと思ってさ』なんて言って」
「へー。全然気付かなかった」
「だって、私も内緒にしてましたから。
　オーダーを聞いたのは私でしたし、聞く時に
　『バレたら恥ずかしいから早目に帰ってよ』って言ったんです」
「あ、単にバレなかったってだけか」
「そんなとこです」

知らなかった。隠し通したって事か。
割と頭良いんだな藤井さんも。

「でも何でですか？」
「いや、昨日話してたら貴司君が来たじゃん。あれは何でかなって。
　あの店ここ近いから貴司君はバイト先に行って
　藤井さんがいなかったから別の店を探した。だから来れた。そんな風に思ってね。
　バイト先を知らなかったらこの周辺にすら来れないでしょ」
「あ、なるほど！さすが頭良いですね！私は全然気付かなかったです」
「いやいや・・・」

これ、ほとんど憂樹が考えた事だしね・・・。



「いらっしゃいませー！」

話してたら、お客さんが来た。いかんいかん。仕事しないとな。


「あ、俺が行ってくるよ」
「お願いします」

そうやって率先してオーダーを聞きに行ったが・・・
これは失敗だったのか。いや。ある意味、正解だったのかも知れない。



「こんにちわ」
「・・・！！」

・・・秋山！！！

「御久し振りですね、工藤さん」
「・・・どうも。いらっしゃいませ」

まさかこいつを接客する羽目になるとは思わなかった。

しかし、秋山がここに来たと言う事は・・・
俺がここでバイトをしてる事を知っているって事で
つまり昨日見た人影はやっぱり・・・？

「工藤さん」
「あ、はい。お決まりですか？」
「工藤さん。今、工藤さんは僕に聞きたい事があるんじゃないですか？
　もちろん、注文の話じゃありませんよ」
「・・・はい？」

どう言う意味だ？

「昨日、この近く、別のファミレスの近くにいたんじゃないか。
　そう言いたいんじゃないですか？」

・・・！！！

どうしてそれを・・・！！
まさか・・・！！！

「御察しの通り、工藤さんが見かけたのは僕ですよ。
　まあ、目的は果たしたので帰りたくなったから挨拶もせず帰りましたが。
　だからこうして言える訳ですからね」
「・・・なるほど。
　ところで目的って何ですか？」
「さあ。それは秘密です。
　とりあえず僕が言いたいのは・・・、あそこにいたのは偶然なんかじゃない。
　そう言う事ですよ。
　あ、注文はドリンクバーとシーフードピザでお願いします」
「・・・かしこまりました」



・・・明らかに挑発してる。
自分は何かをしたと言うのを、自分から言ってるんだから。

それにしても・・・、秋山は何かをする為にあそこにいた訳で
そしてその『目的』は果たしたって言う訳か・・・。



一体、何を狙ったって言うんだ・・・？

そしてこれから何が起こるって言うんだ・・・？



つづく



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