第百六十六話・流れは最悪の方向へ

俺はこのまま帰る事にした。

・・・憂樹には殴られた事を正直に言うしか無いよな。
前にも誤魔化そうとして見抜かれた事があるし、下手な事は言えない。

・・・秋山が絡んでる事は隠しとくか。
それくらいなら何とかなるだろ。



そしてしばらくして。

憂樹が帰って来た。



「ただいま」
「あ、おかえり」
「・・・！！」

予想通り、かなり驚いた顔をした。

「・・・どうしたの、その顔！？」
「ああ、これ？帰りに不良に因縁つけられちゃってさ。ははは」

まあ、嘘はついてない。
苦笑いもしてみたが上手くいくかな。

「因縁って・・・？」
「俺もよく分からないけど、気に入らないって言われてさ」
「・・・・・・」

・・・？

何か悲しそうな顔をしてる。

「まさと・・・」
「！？」

憂樹が急に顔を近付けて来た。

「大丈夫・・・？痛いでしょ・・・」
「え、あ・・・、いや。
大した事は無いから平気だよ」

何故か心配そうな顔で殴られた所を見てる。
どうしたんだろう。そんなに酷い傷でも無いのに。

・・・心配されるのは嬉しいけど。
凄くドキドキするし。



「・・・まさと」
「え、あ、何？」
「もし困った事があったら・・・、遠慮無く私に話して良いんだからね。
　迷惑なんかじゃ無いし、まさとを弱いとか思わないから・・・」
「・・・うん」

どうしたんだろう。妙に心配されてる。
それに何だか泣きそうな顔してるぞ・・・。



「・・・じゃ、着替えるから」
「うん」

憂樹は部屋に入って行った。

・・・ホントに最近の憂樹は、何だか変わったよな。



そして翌日。

今度は藤井さんに言われる番だろうな。

・・・まさか、貴司に殴られたとは言えないからな。
それは憂樹の時以上に言えない事だろう。



「おはよう藤井さん」
「・・・おはようございます」

また元気が無い。
やっぱりまだ落ち込んでるのかな。

「・・・工藤さん」
「ん、何？」
「その傷、どうしたんですか？」

やっぱり来たか。
心配されるのは嬉しいけど、事情が事情だけに
何か緊張する。

「ああ、これ？昨日、学校の帰りに不良に因縁つけられちゃってさ。
　俺、喧嘩弱いから殴られて逃げて来たんだ。ははは」

・・・上手く言えたと思うけど。

「・・・・・・」
「？」

藤井さんは無反応だ。

どうかしたのかな？



「・・・本当に優しいんですね、工藤さんって」
「え？」
「私、知ってるんですよ・・・。
　それ、貴司に殴られたんですよね？」
「・・・！！！」

な・・・！！！

「何で・・・、知ってるの・・・？」
「昨日の夜、貴司からメールが来たんです。
　正式にもう終わりにしよう、なんて話の。
　その中に、工藤さんを殴った、って事も書いてあったんですよ。
　邪魔が入ってやる気が無くなったからもう関わらないって言ってますけどね」
「ふーん・・・」

あいつ、余計な事をしやがって・・・。
何でそんな事をわざわざ報告するかなあ・・・

何か嘘がバレて気まずい・・・。

「まあ・・・、実を言うと確かにそうなんだ」
「本当に・・・、ごめんなさい・・・！
　私達の事なのに、工藤さんまで巻き込んで、迷惑かけちゃって・・・」
「まあ、別に気にしてないからさ。そんなに気に病む事は無いよ」
「すいません・・・」

藤井さんは自分達が巻き込んだと言うが
そこの最大の原因は秋山だ。
あいつが貴司に余計な事を吹き込んだせいで話がこじれ
俺がこんな目に遭った、と言って良いくらいだ。

別に、藤井さんは悪くなんかない。
本気でそう思う。



「あの、工藤さん」
「何？」
「今度の日曜って空いてますか？」
「え、空いてるけど。何で？」
「私に付き合ってくれないですか？
　今度の件でお詫びとお礼がしたいんです」
「お礼？」
「お兄ちゃんの事です」
「ああ、そうか」
「その事で、まだちゃんとお礼をしてなかったですし
　貴司の件でお詫びもしたいんです。
　駄目ですか？」
「まあ・・・、そう言う事なら」
「ありがとうございます！！」



この時、俺は気付いていなかった。

気付ける筈も無かった。



まさかこの時点で秋山の狙い通り・・・
いや、それ以上の成果が出てしまう流れになっていただなんて・・・。



つづく




　　　　　

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