第百八十三話・理由付け

俺は、あれからずっと悩んでいた。



憂樹と関わって良いのかどうか。



これの答えを出さないといけない。



もちろん、答え自体はとっくに出ている。
憂樹と縁を切るなんて嫌だし、今後も色々教わりたい。

ただ・・・、それがどうして『関わって良い理由なのか』を
説明しなきゃいけない。

『嫌だから』とか『○○して欲しいから』とかは
感情に流されている感情論だからダメだと憂樹は言う・・・。

憂樹は、俺とは縁を切る必要なんか無いと考えている。
それは自分がきちんと世界の違いを分かった上で、俺との接し方をわきまえているからだと言う。

そこには・・・、俺と縁を切りたくないとか秋山の言う通りにしたくないとか
感情に流された理由は存在しない。きちんとした『理屈』だ。



俺も、こうやって感情論では無い理由を出せと言う・・・。



厳しい・・・。久し振りに憂樹の厳しい一面を見た。



でも冷静に考えてみれば・・・
確かに俺は感情論でしか物を言っていないし判断していない。

憂樹と縁を切る必要が無い、と言う答えも
ただ『切りたくないから』と感情に流されているだけじゃないか。

これが感情に流されてしまう弱さと言うやつか・・・。

参った。少しは強くなれたと思っていたけど、とんでもない。
まだまだ甘い。非力極まりない。自惚れていた自分が情けない。恥ずかしい。



・・・と、自分を責めてばっかりでもしょうがない。



自分が非力な事はとっくに気付いている。
だったらそこを受け止め、これからの事を考えるべきだと憂樹に教わっている。

俺がこれからすべき事は・・・
もっと客観的に考え、どういった結論を出すかだ。



「・・・あれ、工藤さんじゃないですか」
「え！？」

ビックリした。突然後ろから声を掛けられた。

声を掛けて来たのは・・・藤井さんだった。

「あ・・・、やあ、藤井さん」
「どうも・・・」
「何してるの？」
「それはこっちのセリフですよ。どうして工藤さんがここにいるんですか？」
「え！？」

・・・よく見たらバイト先のファミレスの前に来ていた。
今日は休みで来る必要なんか無いのに、考え事をしていたら無意識にここに向かっていたらしい。

「工藤さん、今日はシフトに入ってない筈ですよね？」
「あ、いや・・・。ちょっと帰りに考え事をしてたら
　うっかりここに来ちゃったみたいで・・・」
「あはは、そうなんですか？」
「藤井さんはこれから？」
「そうですよ。
　・・・ところで工藤さん」
「え、何？」
「考え事をしてたって言うのは・・・私への答えを、ですか」
「あ・・・、まあ・・・ね」

本当は違うんだけど、そこは黙ってよう。

「ごめん、ちょっと色々あって、返事が遅れちゃってて・・・」
「大丈夫ですよ。まだそんなに経ってないじゃないですか」
「・・・ありがとう」

良い子だな、藤井さんは。優しいし嫌味が無い。

「そんなに悩むって事は・・・
　私は期待しても良いって事なんですよね」
「え・・・」
「だって、あっさり答えが出せるって事は
　私の事は特に何とも思ってなかった、って事じゃないですか。
　それよりは待たされる方が嬉しいですよ。
　・・・もちろん待ち遠しくてドキドキしちゃいますけど」
「・・・・・・」
「あんまり難しく考えないで下さいね。
　自分の気持ちに素直になって、その上での答えを言ってくれれば
　工藤さんの選択がどっちであっても私は満足ですから」
「うん・・・」
「あ、もう時間ですから行きますね」
「ああ・・・、頑張ってね」
「ありがとうございます」



・・・・・・。



難しく考えずに、か・・・。



・・・そうか。

別に、難しく考える必要なんか無かったんじゃないか・・・！！！



俺は、その夜に憂樹の部屋に行った。

昨日の答えを出す為に・・・。



「もう答えが出せたの？」
「まあね・・・」
「こんなに早く出せるってのはちょっと意外だったな。
　まあそこは良いや。では、その答えを聞かせて下さい」



俺は間違って無い筈だ・・・。



つづく




　　　　　

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